ソプラノ歌手のアンナ・ネトレプコ(Anna Netrebko)が古巣、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場に出演することになった。彼女のエージェントが発表したもので、劇場が5月から7月にかけて行う「白夜の星音楽祭」に出演する。詳細は発表されていないが、劇場側も出演自体は認めている。
ネトレプコは3月30日、Facebookへの投稿を通じて、ロシアのウクライナ侵略によって生じた戦争を非難、また、プーチン大統領との関係についても否定する声明を発表した。これに対して、ノボシビルスクの国立オペラ・バレエ劇場が翌31日、6月2日に予定されていた彼女のコンサートの中止を発表した。
劇場側は声明で「昨日、アーティストが我が国の行動を非難する声明を発表した。ヨーロッパに住むこと、ヨーロッパの会場で演奏する機会が、彼女にとって祖国の運命よりも重要であることが判明した」と厳しく非難。また、4月1日にはヴャチェスラフ・ヴォロージン下院議長が「裏切り以外の何ものでもない」と批判しており、ロシアでの出演が難しくなったとみられていた。
ネトレプコは1971年、ロシア南部クラスノダール生まれの生まれの50歳。サンクト・ペテルブルク音楽院は母校で、マリインスキー劇場はまさに古巣。若くして芸術監督に就任し、劇場の立て直しに奮闘していたワレリー・ゲルギエフに抜擢されてその舞台を踏んだことが、その後の国際的な成功に繋がった。
そのゲルギエフは緊密な関係を築いてきたプーチン大統領によるウクライナ侵略についてはいまだに沈黙を守り、そのためミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者をはじめとする海外の職をすべて解任され、国外での演奏の場をほぼ失っている。
イタリア・ヴェローナ音楽祭は先日のスケジュール発表で、ネトレプコの《アイーダ》と《トゥーランドット》への出演を確認されたことから、プーチン政権批判に転じたとみられたが、古巣への出演は、西ヨーロッパや米国ではゲルギエフ、ひいてはプーチン大統領への“再接近”と受けとめられることは確実で、今後の活躍の場を決定的に狭めることになりそうだ。
写真:Royal Opera House / Bill Cooper
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