ザルツブルグ復活祭音楽祭の運営をめぐり、芸術監督を務める指揮者のクリスチャン・ティーレマン(Christian Thielemann)と、音楽祭の次期総監督に就任することが決まっているニコラウス・バッハラー(Nikolaus Bachler)が対立している。ティーレマンがザルツブルクの日刊紙「ザルツブルガー・ナハリヒテン」に不満を表明、事実上の“宣戦布告”を行ったことで表面化した。バッハラーは現在、バイエルン州立歌劇場の総裁。総裁を退任する2020年から、ペーター・ルジツカ(Peter Ruzicka)の後任として音楽祭の総監督に就任することが決まっている。
二人がぶつかったきっかけは、2022年、2023年に上演するオペラをめぐって。音楽祭ではティーレマンの希望に沿って、2020年は《ドン・カルロ》、2021年は《トゥーランドット》を上演することを決定しており、バッハラーもこれには同意した。しかし、ティーレマンが決めた2022年の《ローエングリン》、2023年の《エレクトラ》については認めず、それらを《魔弾の射手》と《さまよえるオランダ人》に変更するよう指示を出したという。
ティーレマンはその決定に反発。キャスティングも既に済んでいると抗議したが、バッハラーは移行期間が終わった後の、2020年以降のプログラムについての決定権は自分にあり、ティーレマンにはない、と説明したという。そこでティーレマンは理事会に対して、バッハラーとは意見が合わないこと、これから一緒に仕事が続けられないという主旨の書簡を提出。これを受けて理事会は9月中旬に緊急理事会を開き、その対応を協議する事態に追い込まれている。
ザルツブルグの復活祭音楽祭は1967年、20世紀を代表する巨匠指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが創設したもの。夏の音楽祭とは運営母体が違い、カラヤン時代は、手兵のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とオペラ上演に取り組む音楽祭として話題を集めた。カラヤンが1989年に亡くなった後も、ベルリン・フィルの出演は続いてきたが、不正会計問題が発覚したことなどを受けて2012年を最後に出演を取りやめ、バーデン・バーデンの復活祭音楽祭出演に切り替えた。
ベルリン・フィルの出演がなくなったことで存続が危ぶまれた音楽祭は事務局を一新、2013年からティーレマンと彼が首席指揮者を務めるシュターツカペレ・ドレスデン(ザクセン州立歌劇場管弦楽団)を迎えて再出発したことで息を吹き返した。それだけにティーレマンは音楽祭にとって“中興の祖”的な存在。理事会の決定次第では、ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンを失い兼ねない。
一方、ティーレマンの希望を優先させれば、これまたバッハラーが就任を拒否する可能性がある。ティーレマンは2014年にもザクセン州立歌劇場の次期総裁に決まっていたセルジュ・ドルニーと衝突。この時は、歌劇場のオーナーであるザクセン州政府がティーレマンの希望を優先し、ドルニーは着任前に解雇された。ドルニーはザクセン州政府を不当解雇で提訴、結局その言い分が裁判で認められ、州政府が和解金を支払うことを余儀なくされるという“事件”を起こしている。
写真:Staatskapelle Dresden / Matthias Creutziger
ザルツブルク発 〓 ティーレマンがバッハラーに“宣戦布告”
2019/08/24
【最終更新日】2019/10/17
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