英国が文化予算の大削減に踏み切り、音楽界に大きな衝撃が走っている。中でも、ロンドンを拠点とするイングリッシュ・ナショナル・オペラ(English National Opera)は年度予算の配分が打ち切られ、3年分の一時金を受け取るだけとなった。“都落ち”だけでなく、すべての作品を英語で上演するといったこれまでのような活動が継続できるのか危惧されている。
文化予算の大削減は3日に発表されたもの。英国では政府の文化予算の配分を「アーツ・カウンシル」が行っており、今回の予算削減で中核の「アーツ・カウンシル・イングランド」への配分が5000万ポンド(約83億4,028万円)以上削減されるという大なたが振るわれた。
例えば、ロイヤル・オペラで10%減、ロンドン交響楽団やロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団が12%減、グラインドボーン音楽祭に至っては50%減といった具合で、多くの団体、音楽家が抗議声明を出す騒ぎになっている。
中でも、イングリッシュ・ナショナル・オペラはこれまで配分されていた年間1,260万ポンド(約21億円)の打ち切りが決まり、それに代わって一時金である「新しいビジネスモデルの開発のための資金を」3年間で1,700万ポンド(約28億3,600万円)受け取るだけ、という過去最大の危機に直面した。
イングリッシュ・ナショナル・オペラは、すべての作品を英語で上演しているオペラ・カンパニー。1968年に本拠地をロンドン・コロシアムに移し、1974年から現在の名称を使って活動を続けてきた。チケット価格も低く抑え、どの作品も手話付き上演が必ず一回組み込まれるなど、オペラへの敷居を低くしようとする姿勢で知られてきた。
オペラ側は「ロンドン以外の新しい拠点、潜在的にはマンチェスターを作ることで、全国的なプレゼンスを高めることができるようになるでしょう。ロンドン・コロシアムは、商業施設として最大限に活用しながら、オペラやダンスの上演に活用する予定」と、業態転換に将来を見出そうとしている。
ただ、マンチェスターに移った後は、ツーリング・オペラ・カンパニー的な活動に転換せざるを得ない、とみる向きもある。また、大規模なリストラは必至で、4日の《トスカ》のカーテンコールでは、劇場のソリストたちが揃いの「Choose Opera」のTシャツを着て登場、抗議の声を上げた。
一方、シリーズ物の継続も危ぶまれている。2021/2022シーズンからニューヨークのメトロポリタン歌劇場との共同制作で上演がスタートしたワーグナーの楽劇《ニーベルングの指環》全4部作もその一つ。リチャード・ジョーンズ演出で、第1弾の《ワルキューレ》に続いて、2022/2023シーズンは《ラインの黄金》が登場することになっている。
写真:English National Opera
ロンドン発 〓 英国政府が文化予算に大なた、イングリッシュ・ナショナル・オペラは年度予算の配分が打ち切られ、活動継続の危機に
2022/11/07
【最終更新日】2023/12/06
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