[オペラハウス大全]ロンドン・コロシアム … イングリッシュ・ナショナル・オペラ

[劇場名]ロンドン・コロシアム
     London Coliseum
[所在地]ロンドン … イギリス
     London … UNITED KINGDOM
[開場年]1904年
[客席数]2,359席

…… イングリッシュ・ナショナル・オペラ / English National Opera

[総監督]2018 ▷
 スチュアート・マーフィー / Stuart Murphy
[芸術監督]2019 ▷
 アンニリース・ミスキモン / Annilese Miskimmon
[音楽監督]2023 ▷
 不在

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写真:English National Opera

ロンドンでオペラといえば、いわゆる英国のオペラの殿堂としてのロイヤル・オペラ・ハウスがある。演目を替えながら毎日のように公演が行われるレパートリー・システムで運営されている、世界屈指のオペラ・カンパニーだ。加えてもう一つ、ロンドンにはイングリッシュ・ナショナル・オペラというオペラ・カンパニーがある。その本拠地が、このロンドン・コロシアムだ。

イングリッシュ・ナショナル・オペラは元々、1931年に活動を始めた「ヴィック=ウェルズ・オペラ」が前身。その後、サドラーズ劇場を拠点として「サドラーズ・ウェルズ・オペラ」を名乗り、この時代には1945年にブリテンの《ピーター・グライムズ》の初演も手掛けている。1968年に本拠地をこちらに移し、1974年に現在の名称に変更した。

その間、ずっと貫いてきたことがある。それが、すべての作品を英語で上演するという方針だ。英語の字幕も付けた上で、だ。作曲家は音楽と歌詞の言葉が持っている響きとの調和を考えながら作曲の筆を進めたのだから、英語で上演することで失うものも当然あるはず。しかも、出演する歌手たちには新たに英語で歌うという負担も加わる(ここでしか活かせない!)。それでも続けている。

英語上演だけに限らない。チケット価格も低く抑え、どの作品も手話付き上演が必ず一回組み込まれるなど、オペラへの敷居を低くしようと全力投球。2019年からは土曜日の一部の公演を18歳以下に無料開放する試みも取り入れた。しかし、「オペラの大衆化」になぜそこまでこだわるのか。ロバート・オーエンを生み、かつては“ゆりかごから墓場まで”を標榜したイギリスの気風なのか。

ベルリンにあるコーミシェ・オーパーも、東ドイツ時代からすべての作品をドイツ語で上演している。階級社会がいまも残るイギリス、かたや階級がないはずだった東ドイツ、そのどちらも自国語による上演を捨てず、オペラの大衆化を図った。“階級社会の象徴”でもあるオペラが大衆化すれば、階級の存在が見え難くなる、そんな政治的な意図があったのだとしたら合点もいく。いや、穿ち過ぎか。

トラファルガー広場の近く、ロイヤル・オペラ・ハウスにも近いコロシアムの開場は1904年。民衆のための素晴らしい音楽ホールを標榜して「エンターテイメントの宮殿」として建設されたこともあり、建物の上部は尖塔になっていて、その上には地球儀のオブジェが誇らしげに鎮座する。客席数も2350強と、ロンドンでも最大級のキャパシティだ。

ただ、2004年に大改装を受ける頃には老朽化が激しく、場内は暗く、イスはボロボロ、天井には穴と場末感たっぷりで、ステージの中と外のギャップは開く一方だった。その大改装も、直前の2002年になって改修費用の不足が表面化。費用捻出のために座付きのオーケストラと合唱団を廃止する計画が浮上して労使が激突、芸術監督の辞任、楽団員のストライキが行われるなど、一時は混乱を極めた。

結局、政府の補助金を得て計画撤回、改修も実現したものの赤字体質をめぐる議論はなお続いている。反面、制作畑はロイヤル・オペラを横目に元気いっぱい。2020/2019シーズンからはノルウェー国立オペラ・バレエの芸術監督を務めていたアンニリース・ミスキモンを芸術監督に迎えた。早くも、5年を掛けるワーグナー《ニーベルングの指環》の新制作が発表されている。

振り替えれば、歴代の音楽監督はコリン・デイヴィス、チャールズ・マッケラス、マーク・エルダー、ポール・ダニエル、エドワード・ガードナーと、ロイヤル・オペラに引けを取らない。演出陣もしかり。デービッド・パウントニーもかつて芸術監督を務め、ジョナサン・ミラーら名だたる演出家が数多くここで新制作を行ってきた。セカンド・ブランドとみること自体が間違っているのかもしれない。

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