訃報 〓 ヘルムート・シュテルン(91)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の元第1ヴァイオリン首席奏者

2020/03/23
【最終更新日】2023/02/16

長くベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1ヴァイオリンの首席奏者(副コンサートマスター)を務めたヘルムート・シュテルン(Hellmut Stern)が21日に亡くなった。91歳だった。ベルリン・フィルには1961年1994年まで在籍、定年退職している。

シュテルンは1928年、ベルリン生まれのユダヤ人。1938年11月にユダヤ人を排斥する「水晶の夜」が起きると、10歳で家族と共に満州国に亡命した。

満州ではバーで演奏して生計を助け、後に朝比奈隆率いるハルビン交響楽団でも活動。1949年、建国されたばかりのイスラエルに向かい、キング・デイビッド・ホテルのバーのピアニストとして働いてところを、ヴァイオリニストのアイザック・スターンに見出されてイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団に入団した。

1956年には米国に渡り、セントルイスなどで活動。その後、フリッツ・ライナー(Fritz Reiner)率いるシカゴ交響楽団のオーディションに合格したが、移住したばかりで市民権がなく、ユニオンにも加盟していなかったことから入団は適わず、1961年にはドイツに戻ってベルリン・フィルに入団した。

1988年、週刊誌『デア・シュピーゲル』が「お金の魔術師」という記事を掲載。芸術監督のヘルベルト・フォン・カラヤンとベルリン・フィルの台湾ツアーをめぐり、ツアーを仕切っているマネージメント会社が台湾側に法外な報酬を要求したと報道された。

その際、台湾の知人からの手紙を元にカラヤンとマネージメント会社を批判。以来、アンチ・カラヤン派のリーダー的な存在となったことで知られる。

カラヤンとベルリン・フィルの楽団員は、1982年に起きたクラリネット奏者のザビーネ・マイヤーの入団をめぐる対立以来ぎくしゃくした関係にあり、台湾問題が吹き出したことで関係はさらに悪化。1989年のカラヤンの電撃的な辞任に繋がった。

退団後、自伝『Saiten sprung』を出版。日本でも眞鍋圭子訳『ベルリンへの長い旅 ― 戦乱の極東を生き延びたユダヤ人音楽家の記録』として刊行されている。

写真:Deutsche Fotothek / Morgenstern, Klaus




関連記事

  1. ブリュッセル発 〓 NHK交響楽団のヨーロッパ・ツアーが終了

  2. ミュンヘン発 〓 BR-KLASSIKが話題のドキュメンタリーを再掲載、ネトレプコ、ビリャソンの《椿姫》の舞台裏

  3. パリ発 〓 「France Musique」が年末年始、パリ国立オペラによるワーグナー《ニーベルングの指環》4部作をストリーミング配信

  4. アテネ発 〓 「オペラ・アワード2025」決定、授賞式がギリシャ国立歌劇場で

  5. 訃報 〓 ロランド・パネライ(95)イタリアのバリトン歌手

  6. サンテス・クレウス発 〓 ジョルディ・サヴァールが新しい音楽祭起ち上げ

  7. ベネチア発 〓 フェニーチェ劇場が《ヴォツェック》の上演を断念。ベアトリーチェ・ヴェネツィの音楽監督就任に抗議するオーケストラ、スタッフのストライキで

  8. 北京発 〓 ピアニストのラン・ランが中国でバッハ・ツアー、15都市でゴルドベルク変奏曲

  9. ノイシュトレリッツ発 〓 ノイブランデンブルク・フィルの新しい音楽監督にダニエル・ガイス

  10. 訃報 〓 ミハイル・ユロフスキ(76)ロシアの指揮者

  11. ロンドン発 〓 クラシック音楽雑誌「グラモフォン」が年度賞「グラモフォン・アワード」を発表

  12. パリ発 〓 フランス国立管の組合がフランス放送フィルのストライキに同調

  13. ロンドン発 〓 英国はイングランドでロックダウン、劇場も閉鎖

  14. クレルモン=フェラン発 〓 フランス国立オーベルニュ管弦楽団の次期音楽監督にトマス・ツェートマイアー

  15. ウィーン発 〓 国立歌劇場がストリーミング第2週のラインナップを発表、新制作の《ドン・ジョヴァンニ》もライブ配信

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。