ニューヨーク発 〓 メトロポリタン歌劇場の新しい《指環》に暗雲、共同制作のイングリッシュ・ナショナル・オペラへの助成削減で

2023/01/20
【最終更新日】2023/05/19

英国政府が文化予算の大幅削減に舵を切った問題で、補助金の配分リストから外されたイングリッシュ・ナショナル・オペラ(English National Opera=ENO)に対して1回限りの補助金が追加配分されることになった。国営宝くじによる資金1,146万ポンド(約18億500万円)が配分されるという。

英国では政府の文化予算の配分を「アーツ・カウンシル」が行っており、今回の予算削減で中核の「アーツ・カウンシル・イングランド」への配分が5000万ポンド(約83億4,028万円)以上削減されるという大なたが振るわれた。

それを受け、ENOについては配分リストから外され、これまで配分されていた年間1,260万ポンド(約21億円)の補助金が打ち切られ、代わりに3年間で1,700万ポンド(約28億3,600万円)の一時金の支給に変更された。また、拠点をロンドンからマンチェスターに移し、新しいビジネスモデルの開発を模索することも求められている。

これにENOは「観客の7人に1人は35歳以下、主な出演者の5人に1人は多様な人種、50%以上の観客はオペラが初めてと、アーツ・カウンシルが設定した基準をすべて満たしているのに」と猛反発。歌手のブリン・ターフェルらによる削減反対の署名運動も行われている。そのため、新たな補助金が支給されることになったとみられる。

ただ、追加支給が決まっても、2021/2022シーズンからスタートした新しいワーグナー《ニーベルングの指環》4部作の上演を完結させるのは難しいという。新しい《指環》はリチャード・ジョーンズが新演出を手掛けており、2022/2023シーズンは第1弾の《ワルキューレ》に続いて第2弾の《ラインの黄金》が登場している。

一方、そんな状況に頭を抱えているのが、ENOとの共同制作で2025/2026シーズンから上演をスタートさせる予定でいたニューヨークのメトロポリタン歌劇場。ピーター・ゲルブ総裁はAP通信の取材に対して「ENOが制作を続けられる状況にない以上、彼らと一緒に制作を行うことは明らかに不可能だ」と、諦めの境地にいる。

メトロポリタン歌劇場では現在、2010年からロベール・ルパージュ演出によるプロダクションを上演している。ただ、これはこれで45トンの巨大なセットを動かす必要があり、頻発する不具合などから約1600万ドル(約20億5,900万円)もの負担を強いられているだけに、ゲルブ総裁のイライラは募るばかり。

写真:English National Opera


関連記事

  1. ドレスデン発 〓 ドレスデン・シュターツカペレが2021/2022シーズンの公演ラインナップを発表

  2. マドリード発 〓 あのエムバペが来秋、フルート奏者としてスペインでコンサート・デビュー

  3. 東京発 〓 2020年度の分配額が過去最高の1206億円、日本音楽著作権協会

  4. チューリッヒ発 〓 チューリッヒはワクチン証明か、その場での検査陰性で入場可

  5. 広島発 〓 広島響の次期音楽監督にクリスティアン・アルミンク

  6. ウィーン発 〓 オーストリア造幣局がザルツブルク音楽祭100周年記念銀貨を発行

  7. アテネ発 〓 国立歌劇場がオッフェンバック《ホフマン物語》をギリシャ初演へ

  8. パリ発 〓 「ロン=ティボー国際コンクール」ヴァイオリン部門でウクライナのボーダン・ルッツが優勝、日本の竹内鴻史郎が3位に

  9. リエージュ発 〓 フランスの指揮者リオネル・ブランギエがリエージュ王立フィルの次期音楽監督に

  10. ウィーン発 〓 カウフマンがフランスのレジオンドヌール勲章コマンドゥール章を受章

  11. マドリード発 〓 ポリーニが来年4月のスペイン・ツアーをキャンセル

  12. ミュンヘン発 〓 ミュンヘン・フィルが新シーズンの開幕コンサート

  13. ロンドン発 〓 イギリスの音楽家のビザなし渡航でEU加盟19カ国と合意と発表

  14. インスブルック発 〓 チロル交響楽団の首席指揮者に英国の若手指揮者ケレム・ハサン

  15. トロント発 〓 トロント交響楽団の音楽監督にグスターボ・ヒメノ

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。