ドイツの演出家ハンス・ノイエンフェルス(Hans Neuenfels)が2月6日、ベルリンの自宅で亡くなった。80歳だった。新型コロナウイルスの感染による合併症という。ドイツ語圏を中心に100近い舞台の演出を手掛け、熱狂的な拍手と激しいブーイングが交錯する過激な演出で、作品の本質に迫る姿勢で知られた。
1941年、ドイツ西部クレーフェルト生まれ。ウィーンのマックス・ラインハルト・セミナーで学んで演出家としての活動を始め、1974年にニュルンベルク州立劇場でヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》を手掛けて演出家としてデビューした。
その後、1980年にフランクフルト市立歌劇場でヴェルディ《アイーダ》の演出を手掛け、物語を舞台を現代に移し、主人公アイーダを掃除婦に置き換えるという斬新な演出で話題をさらい、演出家としての評価を確立した。
ザルツブルク音楽祭ではモルティエ総監督の10期目、最後の年となった2001年にヨハン・シュトラウス二世《こうもり》を担当。主要人物のキャラクターもオリジナルの設定を大胆に変更すると同時に、元々ないセリフや寸劇を挿入、さらに夫人で女優のエリザベス・トリセナールを看守フロッシュに起用して狂言回しの役を担わせるという奇抜なアイデアを取り入れた。
しかし、あまりに作品を換骨奪胎させたことに加えて、麻薬、酒池肉林パーティー、暴力、殺人、奇声や叫び声、乱痴気騒ぎ、性的描写といった不快なキーワードが溢れんばかりに登場。途中退席する観客が続出し、終わって激しい怒号が飛び交う、音楽祭始まって以来のスキャンダルとなった。
また、2006年にはベルリン・ドイツ・オペラでモーツァルト《イドメネオ》の演出を手掛けるも、ポセイドン、キリスト、モハメッド、ブッダの切断された頭を椅子に並べる演出が上演前から物議を醸し、警察から襲撃の危険があると警告を受ける騒動を引き起こした。
2010年にはバイロイト音楽祭にデビュー。ワーグナー《ローエングリン》の演出は物語の舞台を実験室に移し、合唱団にモルモットのネズミに格好で登場させて観る者の度肝を抜いている。最後に手掛けたのは2018年で、ザルツブルク音楽祭でチャイコフスキー《スペードの女王》を手掛けていた。
ベルリン芸術アカデミーとバイエルン美術アカデミーの会員で、2005年、2008年、2015年にドイツのオペラ雑誌「オペルンヴェルト」の「演出家オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。また、映画の演出も多数手掛けており、2016年にはドイツ演劇界の先駆者に与えられる「ファウスト賞」が贈られるなど、受賞多数。
写真:APA / Herbert Neubauer
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