訃報 〓 ハンス・ノイエンフェルス(80)ドイツの演出家

2022/02/08
【最終更新日】2023/02/06

ドイツの演出家ハンス・ノイエンフェルス(Hans Neuenfels)が2月6日、ベルリンの自宅で亡くなった。80歳だった。新型コロナウイルスの感染による合併症という。ドイツ語圏を中心に100近い舞台の演出を手掛け、熱狂的な拍手と激しいブーイングが交錯する過激な演出で、作品の本質に迫る姿勢で知られた。

1941年、ドイツ西部クレーフェルト生まれ。ウィーンのマックス・ラインハルト・セミナーで学んで演出家としての活動を始め、1974年にニュルンベルク州立劇場でヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》を手掛けて演出家としてデビューした。

その後、1980年にフランクフルト市立歌劇場でヴェルディ《アイーダ》の演出を手掛け、物語を舞台を現代に移し、主人公アイーダを掃除婦に置き換えるという斬新な演出で話題をさらい、演出家としての評価を確立した。

ザルツブルク音楽祭ではモルティエ総監督の10期目、最後の年となった2001年にヨハン・シュトラウス二世《こうもり》を担当。主要人物のキャラクターもオリジナルの設定を大胆に変更すると同時に、元々ないセリフや寸劇を挿入、さらに夫人で女優のエリザベス・トリセナールを看守フロッシュに起用して狂言回しの役を担わせるという奇抜なアイデアを取り入れた。

しかし、あまりに作品を換骨奪胎させたことに加えて、麻薬、酒池肉林パーティー、暴力、殺人、奇声や叫び声、乱痴気騒ぎ、性的描写といった不快なキーワードが溢れんばかりに登場。途中退席する観客が続出し、終わって激しい怒号が飛び交う、音楽祭始まって以来のスキャンダルとなった。

また、2006年にはベルリン・ドイツ・オペラでモーツァルト《イドメネオ》の演出を手掛けるも、ポセイドン、キリスト、モハメッド、ブッダの切断された頭を椅子に並べる演出が上演前から物議を醸し、警察から襲撃の危険があると警告を受ける騒動を引き起こした。

2010年にはバイロイト音楽祭にデビュー。ワーグナー《ローエングリン》の演出は物語の舞台を実験室に移し、合唱団にモルモットのネズミに格好で登場させて観る者の度肝を抜いている。最後に手掛けたのは2018年で、ザルツブルク音楽祭でチャイコフスキー《スペードの女王》を手掛けていた。

ベルリン芸術アカデミーとバイエルン美術アカデミーの会員で、2005年、2008年、2015年にドイツのオペラ雑誌「オペルンヴェルト」の「演出家オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。また、映画の演出も多数手掛けており、2016年にはドイツ演劇界の先駆者に与えられる「ファウスト賞」が贈られるなど、受賞多数。

写真:APA / Herbert Neubauer





関連記事

  1. ミュンヘン発 〓 バイエルン州立歌劇場が新制作の《魔弾の射手》をライブ配信

  2. ブレーメン発 〓 バレンボイムがウェスト・イースタン・ディヴァン管とのヨーロッパ・ツアーをスタート

  3. ミラノ発 〓 スカラ座が2022/2023シーズンの公演ラインナップを発表

  4. バニング発 〓 アナログ・レコード人気に打撃、ラッカー盤製造メーカーの工場が全焼

  5. 東京発 〓 N響の第1コンサートマスターに長原幸太

  6. ポートランド発 〓 オレゴン響も楽団員と指揮者全員をレイオフ

  7. マルタ・アルゲリッチ・フェスティバル 〓 今年のフェスティバルも豪華メンバーで

  8. ロンドン発 〓 「BBCプロムス」がこの夏の公演ラインナップを発表、「ラストナイト」の指揮はダリア・スタセヴスカ

  9. マンチェスター発 〓 空席だったBBCフィルハーモニックの首席指揮者にヨン・ストルゴールズ

  10. ミュンヘン発 〓 バイエルン州立オペラが2023/2024シーズンの公演ラインナップを発表

  11. バーゼル発 〓 バーゼル・シンフォニエッタの次期首席指揮者にティトゥス・エンゲル

  12. 訃報 〓 イゴール・オジム(92)スロヴェニア出身のヴァイオリニスト

  13. リマ発 〓 テノールのフアン・ディエゴ・フローレスが自身のレーベルを起ち上げ

  14. ベルリン発 〓 ベルリン・フィルに初の中国人メンバー、ヴィオラの首席奏者に梅第揚

  15. 東京発 〓 ドミンゴとカレーラスが来年1月、日本で「三大テノール」偲んで「パヴァロッティに捧げるコンサート」

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。