日本を代表する作曲家の一人、湯浅譲二(Joji Yuasa)が7月21日、肺炎のため東京都内の自宅で亡くなった。94歳だった。前衛的な芸術家グループ「実験工房」に参加、音楽を音響エネルギーの運動と捉える独自の音楽観に基づき、前衛的な作風で内外の多くの音楽家に影響を与えた。また、オーケストラや合唱曲、映画やテレビの音楽まで幅広く作曲している。
福島県郡山市の生まれ。開業医で音楽愛好家だった父親の影響で幼い頃から音楽に親しんで育つ。外科医になるため慶應義塾大学医学部に進んだが、独学で始めた作曲への関心が高じて、1951年に詩人の瀧口修造の下にさまざまな分野の若手芸術家が集った前衛的な芸術家グループ「実験工房」に加わり、本格的に作曲家としてのキャリアをスタートさせた。
1960年代に入り、音楽を音響エネルギーの運動と捉える独自の音楽観で注目を集め、最新の音響技術を駆使した作品で電子音楽の草分けの一人として現代音楽の礎を築いた。1972年に代表作として知られる《クロノプラスティク I》を発表して国際的な名声を確立。代表作に《クロノプラスティクI〜Ⅲ》、《弦楽四重奏のためのプロジェクション》、《内触覚的宇宙I~Ⅴ》などがある。
その一方、「草燃ゆる」や「元禄太平記」、「徳川慶喜」といったNHKの大河ドラマの音楽、「おかあさんといっしょ」の音楽など、テレビや映画の音楽を数多く作曲。「はしれちょうとっきゅう」など、よく知られた童謡も手がけた。
1981年からは米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校で教壇にも立って作曲界の最前線を歩み、日本でも日本大学や東京音楽大学、桐朋学園大学で客員教授や特任教授として教えた。1989年創設の「秋吉台の夏」現代音楽セミナー&フェスティバルの芸術監督を長く務め、学生に作曲思想を伝えて2000年代に活躍を始めた作曲家たちに大きな影響を与えた。
また、1999年から2011年にかけて「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」を監修。これまでに尾高賞5回、京都音楽大賞、サントリー音楽賞、芸術選奨文部大臣賞など数多くの賞を受賞し、1999年に日本芸術院賞、2007年に旭日小綬章、2014年に文化功労者など受章多数。2010年から国際現代音楽協会の名誉会員を務めていた。
昨年、妻を追悼するために旧作を編曲した「哀歌=エレジィ」を発表。これが今年、国内の優れたオーケストラ作品に贈られる「尾高賞」を受賞し、この5月に都内で行われた授賞式には車椅子ながら元気な姿を見せていた。関係者によれば、その後に体調が悪化、自宅で静養を続けていたという。
写真:Schott Music
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