訃報 〓 アナトール・ウゴルスキ(80)ロシア出身のピアニスト

2023/09/06
【最終更新日】2024/08/05

ロシア生まれで亡命したドイツを拠点に活躍したピアニストのアナトール・ウゴルスキ(Anatol Ugorsky)が5日、デトモルトで亡くなった。80歳だった。ソ連時代にレニングラード音楽院の教授を務めたが、ユダヤ系市民への迫害から逃れるため1990年に亡命。その後は個性派ピアニストとして活躍した。

1942年、西シベリアのアルタイ地方南西部にあるルブツォフスクの生まれ。1945年に家族でレニングラード(現在のサンクト・ペテルブルク)に移り、レニングラード音楽院に入学でナデージダ・ゴルボフスカヤに師事。学生時代から前衛的な解釈で注目を集めた。

1968年には、ルーマニアのジョルジェ・エネスク国際ピアノ・コンクールで第3位を獲得。その後はアルバン・ベルク、オリヴィエ・メシアン、ピエール・ブーレーズらの現代作品を積極的に紹介、妻で音楽学者のマヤ・エリクと共にシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》のソ連初演を手掛けた。

ところが、そうした活動が当局から問題視され、1970年代に入ってソロ活動を禁じられ、合唱団の伴奏者の仕事に従事させられた。1982年になってレニングラード音楽院の教授に抜擢されたが、1980年後半からの体制改革運動「ペレストロイカ」の流れの中で反ユダヤ主義の動きが表面化。脅威が家族にも及んできたことから、1990年に一家でベルリンに亡命した。

ベルリンの難民キャンプで数ヶ月間過ごした後、1991年になって老舗レーベル「ドイツ・グラモフォン」と専属契約。《ディアベッリ変奏曲》でアルバム・デビューを飾り、1992年には50歳でザルツブルク音楽祭に出演、衝撃的な国際デビューを飾っている。

青年時代にグレン・グールドの影響を受けたとされるが、柔らかなタッチ、幅広いダイナミック・レンジ、鮮やかな色彩を駆使したロマンティズム溢れる演奏が多くの聴き手を魅了。レパートリーも多彩で、自ら伝道者を自負するスクリャービンを筆頭に、ベートーヴェン、シューマンやシューベルトの作品で高い評価を集めた。

スクリャービンはピエール・ブーレーズ指揮のシカゴ交響楽団とのピアノ協奏曲が2000年のグラミー賞にノミネートされ、2010年にはピアノ・ソナタ全曲を録音している。また、1995年には、メシアンの《鳥のカタログ》で“ドイツ版グラミー賞”とされた「エコー・クラシック」を受賞している。

後進の指導にも熱心で、長くデトモルト音楽大学の教授を務めた他、ミュンヘン国際音楽コンクールの審査員なども歴任。2019年に46歳で亡くなった娘のディナ・ウゴルスカヤもピアニストで、ソロ活動のかたわら、ウィーン国立音楽演劇大学で亡くなるまでピアノ科の教授を務めていた。

写真:Deutsche Grammophon





関連記事

  1. ベルリン発 〓 ベルリン・フィルの新しいクラリネット奏者はともにスロベニア出身で同門という二人

  2. ベルリン発 〓 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が2021/2022シーズンの公演ラインナップを発表

  3. ミュンヘン発 〓 ソプラノのディアナ・ダムラウに「ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章」

  4. エッセン発 〓 ドイツの老舗音楽月刊誌「フォノ・フォルム」廃刊へ

  5. ミュンヘン発 〓 補償の必要ないとミュンヘン市政府の法律顧問、ゲルギエフ解任で

  6. ドレスデン発 〓 ドレスデン・シュターツカペレが首席指揮者を退任するクリスティアン・ティーレマンに名誉指揮者の称号

  7. 訃報 〓 ペーター・ザイフェルト(71)ドイツのテノール歌手

  8. 訃報 〓 アレクサンドル・クナイフェル(80)ロシアの作曲家

  9. ブッパータール発 〓 オーストリアの若手指揮者パトリック・ハーンがブッパータール市との契約を延長

  10. フランクフルト発 〓 hr響の次期首席指揮者にアラン・アルティノグリュ

  11. ベルリン発 〓 ベルリン・ドイツ・オペラが2022/2023シーズンの公演ラインナップを発表

  12. バイロイト発 〓 バイロイト音楽祭が常設合唱団を解散、今後は1年ごとにオーディションを通じてメンバーを選抜

  13. ミュンヘン発 〓 マーリス・ペーターゼン、ヴォルフガング・アプリンガー=シュペルハッケにバイエルン州から「宮廷歌手」の称号

  14. ミュンヘン発 〓 ミュンヘン・フィルのウクライナ支援のチャリティー・コンサートに4,000万円超の善意

  15. キール発 〓 市立劇場の次期音楽総監督にガブリエル・フェルツ

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。