バンクーバー発 〓 キーシンが自由主義陣営の及び腰のウクライナ支援を一喝、「あらゆることしなければ」

2022/04/23

ロシア出身の世界的ピアニスト、エフゲニー・キーシン(Evgeny Kissin)がロシアのプーチン政権のウクライナ侵略に対する自由主義陣営の対応について長文の声明を発表してその不十分な姿勢を批判、苛立ちを表明した。コンサートに先立ち、カナダ・バンクーバーの芸術と文化を扱うWEBメディア「Stir」の取材に答える中で、20日付けの記事に声明を寄せたもの。

声明では、戦後の自由主義陣営の政策への失望を隠さず、1999年から2000年にかけてのプーチン政権によるチェチェンでの大虐殺に対して現在のような制裁を加えていれば、その後の2008年にグルジア侵攻と南オセチアの事実上の併合、2014年のクリミア半島を併合することはなかったと指摘。制裁で「もしかしたらその時に政権が倒れていた」可能性に触れ、プーチン政権の横暴を座視してきた姿勢を批判している。

また、批判は、ロシアが常任理事国で拒否権を行使するため侵略戦争に対して有効な手が打てない国際連合にも及び、「ソ連が消滅した後、なぜロシアが国連安全保障理事会の議席を引き継いだのでしょうか。第二次世界大戦後、ソ連に議席を与えないようにするのが難しかったのだろうとは思いますが、悪の帝国が崩壊した後、なぜロシアに与えられたのでしょうか。例えば、カナダ、オーストラリア、日本などの民主主義国家に与えられるべきだったのだ」と述べている。

キーシンの視線は最後まで厳しく、この瞬間も民間人が戦闘に巻き込まれて亡くなっている状況を傍観している国際社会に対して、「今、私が彼らに言えることは、勇敢なウクライナ国民がこの戦争に勝利し、侵略者と殺人者を彼らの国から追い出すために、あらゆることをしなければ、歴史はあなたを決して許さないだろう、ということだけです」という重い言葉で声明は締め括られている。

キーシンは1971年、モスクワ生まれの50歳。ユダヤ系の家庭に生まれ、ロシア、イギリス、イスラエルの国籍を持ち、現在はプラハ在住。モスクワのグネーシン音楽学校に学び、10歳でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を弾いてデビューするなど幼い頃から神童として知られ、当代を代表するピアニストの一人として国際的な活動を展開してきた。

ロシアのウクライナ侵略についてキーシンは、母校のグネーシン音楽学校の校長がプーチン大統領によるウクライナ侵略を支持する「Z」の文字の入ったTシャツを着て学生オーケストラを指揮したことに対して、教員と卒業生、学生オーケストラのメンバーが3月22日に出した抗議声明にも卒業生の一人としてピアニストのダニール・トリフォノフと署名している。

また、続いて27日には、ドイツのシュタインマイアー大統領が開いたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による「ウクライナのための連帯コンサート」にも出演している。

写真:Warner Classics / Felix Broede


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