訃報 〓 フー・ツォン, 中国生まれの英国のピアニスト

2020/12/29
【最終更新日】2020/12/30

中国出身で英国に亡命して活動を続けていたピアニストのフー・ツォン(Fou Ts’ong,Fù cōng,傅聡)が28日、ロンドン市内の病院で新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった。86歳だった。1955年の第5回ショパン国際ピアノ・コンクールでアジア人として初めて入賞した(第3位)。

フーは1934年、中華民国時代の上海生まれ。上海芸術大学教授を務めた翻訳家・文学者のフー・レイ(傅雷)を父に持ち、上海交響楽団創設者でもあるイタリア人指揮者マリオ・パーチにピアノの手ほどきを受ける。1953年にワルシャワ音楽院に留学、ズブグニェフ・ジェヴィエツキに師事した。

1955年のショパン国際ピアノ・コンクールまではまったく無名に近かったが、第3位入賞と同時にマズルカ賞も受賞した。この年のコンクールでは、田中希代子が第10位で日本人初の入賞を果たす一方、第1位がポーランドのアダム・ハラシェヴィチ、第2位がウラディミール・アシュケナージという結果に審査員のミケランジェリが退場するという騒ぎも起きている。

その後、東欧を中心に演奏活動をスタートさせたが、本国から帰国を促されたことから1959年に25歳の時にポーランドから英国へ亡命した。中国では1958年から後に大飢餓を招く「大躍進」政策が始まっており、インテリ層への迫害も始まっていた。亡命時の旅費、ロンドンでの生活費は8歳年上でパリを拠点に演奏活動をしていたピアニストのジュリアス・カッチェンが助けたという。

その後、ロンドンを拠点に活動を展開。モーツァルト、ショパン弾きとしてならし、「ピアノの詩人」と呼ばれることも。文豪ヘルマン・ヘッセからは「フー・ツォンのショパン、それはまさに奇跡だ」と絶賛された。マルタ・アルゲリッチやダニエル・バレンボイム、レオン・フライシャーやラドゥ・ルプーと親しく、別府アルゲリッチ音楽祭にも客演している。

1960年にヴァイオリニストのユーディ・メニューインの娘であるザミラと結婚、男児をもうけた。彼女とは1969年に離婚、その後、上海生まれで英国で活動していたパツィー・トウ(卓一龙)と再婚している。「大躍進」後の1966年から始まった「文化大革命」の中で、知識人階級の両親が迫害され、自殺に追い込まれる悲劇に見舞われたが、1982年に北京中央音楽学院のピアノ部門の非常勤教授に就任。その後、講義や演奏のために母国を訪問していた。

写真:VCG





関連記事

  1. ウィーン発 〓 ウィーン・フィルによる恒例のクリスマス・コンサート中止へ

  2. ブダペスト発 〓 イヴァン・フィッシャーが室内コンサートの動画を毎晩投稿と表明

  3. ザルツブルク発 〓 ザルツブルク復活祭音楽祭が過去の公演をストリーミング配信

  4. ウィーン発 〓 楽友協会がウィーン・フィルのコンサート・スケジュールを発表

  5. ハノイ発 〓 ベトナムを代表するオペラ歌手、義兄に刺殺される

  6. 東京発 〓 ロイヤル・オペラ・ハウス「シネマシーズン2019/20」スケジュール発表

  7. ロンドン発 〓 グラインドボーン音楽祭がストリーミング配信の8月のラインナップを発表

  8. グラインドボーン音楽祭 〓 音楽祭の開幕延期を決定

  9. 訃報 〓 ロザリンド・エリアス, 米国のメゾ・ソプラノ歌手

  10. クレルモン=フェラン発 〓 フランス国立オーベルニュ管弦楽団の次期音楽監督にトマス・ツェートマイアー

  11. 訃報 〓 アレクサンドル・ブズロフ, ロシアのチェロ奏者

  12. ロンドン発 〓 イングリッシュ・ナショナル・オペラが5年かけ、新しい《ニーベルングの指環》

  13. マドリード発 〓 マルゼナ・ディアクンが来シーズンからマドリード州立管の芸術監督に

  14. フランクフルト発 〓 hr響の次期首席指揮者にアラン・アルティノグリュ

  15. バニング発 〓 アナログ・レコード人気に打撃、ラッカー盤製造メーカーの工場が全焼

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。