訃報 〓 アレクサンドル・クナイフェル(80)ロシアの作曲家

2024/07/02

ロシアの作曲家アレクサンドル・クナイフェル(Alexander Knaifel)が6月27日、サンクト・ペテルブルクで亡くなった。80歳だった。同世代の中で西側でも著名な一人で、宗教的テーマを前面に打ち出しながら、先鋭的なミニマリズムの瞑想の美学を開拓。ソビエト連邦崩壊後の数年間、ロシアの現代音楽を再定義する上で重要な役割を果たした。

旧ソビエト時代のウズベキスタン共和国の首都タシケントの生まれで、幼い頃からチェロを学び、レニングラード(現在のサンクト・ペテルブルク)音楽院でエマニュエル・フィッシュマン、モスクワ音楽院でムスティスラフ・ロストロポーヴィチに師事した。しかし、手のケガでチェロ奏者の道を諦め、作曲家に転じた。ロストロポーヴィチはその後、数十年にわたって多くの作品を委嘱、初演している。

最初の成功は、まだ学生だった1966年。オペラ《カンタヴィルの幽霊》を作曲。1970年後半になると、体制側作曲家ティホン・フレンニコフが危険視する前衛作曲家7人をピックアップして作成したブラック・リスト「フレンニコフ・セブン」にエディソン・デニソフ、ソフィア・グバイドゥーリナらと登録された。1979年に即興曲《ア・プリマ・ヴィスタ》をドイツ・ケルンで初演したことを機にさらに監視が強められた。

ただ、その結果、作品がソビエトで演奏される機会が減り、それを受けて映画音楽に注力。セミョーン・アラノヴィッチ監督(1934ー1995)の作品などを含め、40本以上の映画音楽を手がけている。1990年代に入ると、宗教的な影響を受けた一連の作品が生み出されるようになり、1993年の《第8章-カンティクム・カンティコルム》、1995年の《詩篇第50篇》、1996年の《幸福への道》といった作品が続いた。

ソビエト崩壊後はその活動に改めて光が当たり、2001年にはオペラ《不思議の国のアリス》をアムステルダムで初演。2002年以降、ECMレーベルから合唱曲と室内楽曲がロストロポーヴィチや指揮者のサウリュス・ソンデツキス、チェリストのイヴァン・モニゲッティ、ピアニストのオレグ・マーロフらによってリリースされている。

また昨年2023年、80歳の誕生日を記念するコンサートが行われ、サンクト・ペテルブルク音楽院室内管弦楽団を率いて作曲家と一緒に長く仕事をしてきたアルカディ・シュタインリュヒト指揮のサンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会が行われていた。

写真:ECM Records


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