音楽教育とコミュニティー開発を兼ねた社会システム「エル・システマ=El Sistema」の創設者として知られるベネズエラの社会活動家ホセ・アントニオ・アブレウ(José Antonio Abreu)が24日、79歳で亡くなった。ベネズエラの文化大臣なども歴任、「音楽は不幸を希望に変える」として音楽の可能性を追求した生涯だった。
アブレウは1939年、ベネズエラ北西部の州トルヒーリョ州のバレラ生まれ。バルキシメート、首都カラカスで音楽、経済を学び、指揮者として活動。その後、音楽教育を通した貧困層の解消に着目、「芸術文化が裕福な一部の人間だけに享受されてはならない」という信念に基づき、1975年にベネズエラ国立青少年オーケストラネットワーク「エル・システマ=National Network of Youth and Children Orchestras of Venezuela」を起ち上げた。
「エル・システマ」は、家庭の経済状況にもかかわらず、すべての子が無償で集団での音楽教育が受けられる仕組み。そこでの活動を通じて、子どもたちが自ら協調性や規律を学び、目標に積極的に取り組んでいく姿勢を育み、希望や誇りを持てるようにする、といった社会改革システムでもある。
ベネズエラでは現在、125のユース・オーケストラが設立され、30万人を超える子どもたちが音楽学校に通っており、そこからグスターボ・ドゥダメル、ディエゴ・マテウス、クリスチャン・バスケスといった指揮者をはじめ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席コントラバス奏者エディクソン・ルイスら数多くの音楽家が巣立っている。
また、システムは60以上の国・地域で同様の取り組みが展開されて大きな効果を上げ、1983年にはベネズエラの文化大臣に就任、2009年にはユネスコのアンバサダーを務めている。ユネスコ国際音楽賞、アストゥリアス賞、ポーラー音楽賞、エラスムス賞、高松宮記念世界文化賞、ドイツ文化勲章など受賞多数。
奇しくも彼が亡くなったこの日、愛弟子のドゥダメルがスペイン国籍を取得した。スペインの女優マリア・バルベルデと結婚したのが直接的なきっかけ。原油収入の落ち込みで政治的、経済的な危機が続く中、ドゥダメルはベネズエラ政府批判を重ねており、 ニコラス・マドゥロ大統領との対立が深まっていた。
写真:El Sistema
訃報 〓 ホセ・アントニオ・アブレウ(79)エル・システマの創設者
2018/03/25
【最終更新日】2023/02/06
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