ドイツのバリトン歌手フランツ・グルントヘーバー(Franz Grundheber)が27日、ハンブルクの自宅で亡くなった。27日はちょうど88歳の誕生日だった。柔軟性に富んだ声で文字通り国際的に活躍。イタリア・オペラからワーグナー作品、現代オペラまで150を超える役柄を幅広く歌い、演技派として独特の存在感を放った。
独仏国境の町トリーアの生まれで、3年間の空軍での兵役を終えた後、米国のブルーミントンのインディアナ大学で学び、1966年にハンブルク州立歌劇場に入団した。以来、劇場との関係は深く、2,000を超える公演に出演。1986年には「宮廷歌手」の称号が授与され、1988年に退団して以降も客演を続け、2006年には名誉会員に選出されている。
一方、1976年にモーツァルト《フィガロの結婚》のタイトルロールを演じてデビューしたウィーン国立歌劇場との縁も深く、こちらからも「宮廷歌手」の称号が贈られている。ここでも数多くの役を演じているが、その中でも、ベルク《ヴォツェック》のタイトルロールは運命的な当たり役。1987年にクラウディオ・アバドの指揮、マリー役にヒルデガルト・ベーレンスを迎えた1987年に公演はライヴ録音が残り、いまも評価が高い。
ヴォツェック役は前年にブリュッセルのモネ劇場で初めて挑戦したが、ウィーンでの成功の後も、1993年から1999年にかけてパリのシャトレ座とベルリン州立歌劇場で上演されたプロダクションにも出演。パトリス・シェローの演出で、指揮はダニエル・バレンボイム、マリー役にはヴァルトラウト・マイヤーが起用され、こちらも1994年の公演の映像が残り、高い評価を得てきた。
ヨーロッパで広く活躍したのみならず、米国でも、1999年にデビューしたニューヨークのメトロポリタン歌劇場などに数多く客演。メトロポリタン歌劇場ではリゴレットを演じた初のドイツ人歌手になった。また、イタリアのヴェローナ音楽祭では、ヴェルディ《アイーダ》のアモナスロ役を音楽祭で初めて歌ったドイツ人歌手になっている。
写真:DR


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