ハンガリーの作曲家で指揮者のペーテル・エトヴェシュ(Eötvös Péter)が3月24日、ブダペストで亡くなった。80歳だった。作曲界を代表する一人で、指揮者としても数多くのオーケストラを指揮。若い作曲家と指揮者のためのマスタークラスやワークショップを世界各地で展開するなど、教育者としても熱心な活動を続けている。
1944年1月2日、当時はハンガリー領だったルーマニア・トランシルヴァニア地方のセーケイウドヴァルヘイの生まれ。ブダペスト音楽院で作曲を学んだ後、1966から1968年にケルン音楽大学に留学。カールハインツ・シュトックハウゼンとの出会いから影響を受け、彼のアンサンブルと定期的に共演を重ね(1968-1976)、1971年からはケルンの西部ドイツ放送電子音楽顧問を務めた(1971-1979)。
シュトックハウゼン・アンサンブルとの大阪万国博覧会での共演(1970年)を通じて日本文化に親しみ、1970年に自殺した三島由紀夫に触発され、1973年に《ハラキリ》を作曲。1978年、ピエール・ブーレーズに招かれ、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)の開設記念コンサートを指揮。これをきっかけにアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めた(ー1991)。
作曲家としては伝統的な西洋音楽から現代音楽、電子音楽、さらに民俗音楽にわたる広範な音楽素材を、洗練された手法で融合させた作風が特徴で、1990年代以降は1995年の声楽と管弦楽のための《アトランティス》、1997年のオペラ《三人姉妹》などの大規模作品の成功により、世界的な名声を確立した。
その後も旺盛な作曲活動が続き、2002年に《アトランティス》の続編にあたる《IMA》を、2004年にトニー・クシュナーの同名戯曲に基づく《エンジェルズ・イン・アメリカ》を、2006年にヴァイオリンとオーケストラのための《セブン-コロンビア宇宙飛行士への追悼-》を、2008年には『更級日記』を元にした《レディ・サラシナ》を次々と発表、いずれも大きな話題となった。
最近では、2021年にベルリン州立歌劇場でオペラ《スリープレス》を自ら指揮して初演、ドイツのオペラ雑誌『オペルンヴェルト=Opernwelt』の「世界初演オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。2023/24シーズンには、13作目のオペラで、初のハンガリー語作品となる《ヴァルスカ》がハンガリー国立歌劇場で初演されている。
指揮者としては1980年の「BBCプロムス」で指揮者デビュー以来、指揮者として、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとするさまざまなオーケストラを指揮してきた。BBC交響楽団(1985ー1988)、SWRシュトゥットガルト放送交響楽団(2004ー2005年)、イェーテボリ交響楽団(2003ー2007)で首席客演指揮者を務めた。
教育者としては1991年、ブダペストに「国際エトヴェシュ・インスティテュート」を設立。2004年には民間の「ペーター・エトヴェシュ現代音楽財団」を設立し、2013年からはブダペスト音楽センターの一部となっている。カールスルーエ音楽大学教授(1992-1998、2002-2007)、ケルン音楽大学教授(1998-2001)を歴任してきた。
写真:HarrisonParrott / Csibi
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訃報 〓 ペーテル・エトヴェシュ(80)ハンガリーの作曲家・指揮者
2024/03/25
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