フランスの指揮者ナタリー・シュトゥッツマン(Nathalie Stutzmann)がメトロポリタン歌劇場管弦楽団のメンバーに謝罪の手紙を送るという事態に陥っている。新制作のモーツァルト《魔笛》の指揮者として「ニューヨーク・タイムズ」紙の取材を受けた際、「舞台で何が起こっているのかわからないまま、洞窟の奥にいることほど退屈なことはない」と発言。これにオーケストラのメンバーたちが反発する声明を出していた。
新制作の《魔笛》は、メトロポリタン歌劇場が19年ぶりに登場させるもので、劇場デビューとなる英国の演出家サイモン・マクバーニーが新得出を手掛ける。シュトゥッツマンは5月初めに上演が始まったモーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》の指揮で劇場デビューを飾ったばかりで、《魔笛》の指揮はそれに続く大仕事だった。
それを受けて取材を受けたシュトゥッツマンは、「オーケストラの音楽家として、舞台で何が起こっているのかわからない洞窟の奥にいることほど退屈なことはないでしょう。3、4時間、ワーグナーなら5時間、ピットの底で過ごして、上で何が起こっているのか全くわからないなんて想像できますか?」と発言していた。
これにオーケストラが「私たちがオーケストラピットで過ごす時間は、平凡な経験ではなく、洞窟のようなものだとも思っていません。頭上で繰り広げられる壮大な映像のスペクタクルは見えなくても、ステージ上で何が起こっているかは正確に把握しているのです」と反発、シュトゥッツマンの発言を明確に否定する声明を発表した。
声明ではさらに「常に変化する歌手のニーズや選択に敏感で、舞台上の芸術性とピット内の芸術性を融合させるため、歌手とのコラボレーションを楽しんでいます。このようにして、私たちは毎晩、新鮮な芸術的視点を観客に提供しています。つまり、私たちは退屈することなく、むしろ爽快感を味わうことができるのです」とだめ押しの表現が並んでいる。
オーケストラの使命についても、「私たちは、目に見えないものを深く知るため、自分たちの仕事に情熱を注ぎ、膨大な量の準備をする。楽譜やあらすじに目を通し、ある時はサポート、ある時はソロと、その時々の自分の役割をしっかりと認識する。巨大なオペラハウスの難しい音響を直感的に理解し、ライブシアターの、時に釘付けになるような瞬間にもスムーズに対応できる芸術的柔軟性を培ってきました。世界最高のオペラスターをサポートし、世界最高のオーケストラのひとつであることに、私たちは大きな誇りを感じています」と強調した。
現地の報道によると、謝罪は劇場のピーター・ゲルブ総裁がシュトゥッツマンに要請したもの。シュトゥッツマンは22日付の謝罪の手紙を作成、メンバーに送ったという。
写真:Atlanta Symphony Orchestra / Rand Lines
メトロポリタン歌劇場管弦楽団の皆様、5月18日付のニューヨーク・タイムズに掲載された私のコメントが、オーケストラの皆様に失望を与えてしまったことを深くお詫びいたします。私の意図は、サイモン・マクバーニーの素晴らしい『魔笛』の演出が、オーケストラを演出に含めて視覚的に祝福している事実を称え、そこに焦点を当てたかっただけなのです。
観客からはかつてないほどよく見えるし、舞台上のすべてのアクションを見ることができる。このポジティブな体験に参加できることは、私に大きな喜びを与えてくれます。私は、あなた方の優れたオーケストラの地位や立場を、いささかも低下させたり過小評価したりするつもりはありませんでした。ピットという物理的な場所に関係なく、常に舞台上の歌手に同調していることに大きな誇りを感じていることは理解しています。
昔、ファゴット奏者だった私がオペラのピットで経験したことを重ね合わせてはいけないのかもしれませんね!オペラは、さまざまなジャンルを統合した究極の芸術であると確信していますが、私にとって最も重要なのはサウンドトラックであり、特にオーケストラ奏者の存在をもっとアピールできるような演出家ともっと一緒に仕事ができるかもしれません。
ドン・ジョヴァンニ』と『魔笛』は、これからさらに上演されるのですが、この2つの公演が楽しみです。メットで働くこと、そして世界で最も偉大なオーケストラのひとつと働くことは、とても名誉なことです。敬具、そして愛情を込めて。
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