デモイン発 〓 大ベテラン、サイモン・エステスがオペラからの引退を発表

2022/06/17

米国のバス・バリトン歌手のサイモン・エステス(Simon Estes)がオペラからの引退を発表した。エステスは黒人のオペラ歌手の第一世代で、広く成功を収めた一人。60年近いオペラ界での活動を通じて、黒人歌手に対する人種的偏見を大きく転換させる役割を担ってきた。

最後の出演は、アイオワ州デモイン・メトロ・オペラのガーシュイン《ポーギーとベス》の公演。《ポーギーとベス》のニューヨーク・メトロポリタン歌劇場初演は1985年で、この時の公演で、ポーギー役を歌ったのがエステス。今回の公演では、彼にとって103番目の役となるフレイジャー弁護士を演じる。

エステスは1938年、アイオワ州センターヴィル生まれの84歳。医学部で学ぼうとアイオワ大学に進んだが、大学の合唱団初の黒人メンバーとして参加したことをきっかけに声楽の道に進み、卒業後はジュリアード音楽院へ。その後、差別、偏見が米国よりも少ないヨーロッパに渡り、1965年にベルリン・ドイツ・オペラでヴェルディ《アイーダ》ラムフィス役を歌ってプロ・デビューした。

翌年、チャイコフスキー国際コンクールで第3位を獲得。その後は欧州の主要歌劇場からの出演依頼が相次いだ。1978年、アフリカ系アメリカ人歌手として初めて、《さまよえるオランダ人》のオランダ人を歌ってバイロイト音楽祭にも登場、その後も出演を重ねた。

偏見、差別が根強い米国に戻り、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に出演したのは1982年。この時はワーグナー《タンホイザー》のヘルマン役を歌った。メトロポリタン歌劇場では1985年の《ポーギーとベス》の後、1986年には新制作の《ニーベルングの指環》ではヴォータンに起用されている。

これまで出演した歌劇場は84、共演したオーケストラは115。歌手活動のかたわら人道的活動にも積極的に取り組み、活動を通じて、クリントン、エリツィン、マンデラといった大統領、ローマ教皇といった国際的な著名人を前に歌ってきた。今後はアイオワ州立大学、デモイン・エリア・コミュニティ・カレッジの教授として後進の指導に当たりながら、コンサート活動を続けるという。


写真:Iowa State University / Christopher Gannon


関連記事

  1. ロサンゼルス発 〓 ジェームズ・コンロンがロサンゼルス・オペラとの契約を延長

  2. ニューヨーク発 〓 メトロポリタン歌劇場が2023/2024シーズンの公演ラインナップを発表

  3. ワルシャワ発 〓 第19回「ショパン国際ピアノ・コンクール」の一次予選が終了、40名が二次予選に。日本人ピアニストは5名が進出

  4. サンタンデール発 〓 スペインの音楽祭は8月催行へ

  5. ウィーン発 〓 ウィーン・フィルが総裁二人に名誉会員の称号

  6. 訃報 〓 マイケル・トゥリー(84)米国のヴィオラ奏者

  7. 訃報 〓 レナーテ・ホルム(90)オーストリアのソプラノ歌手

  8. ボルドー発 〓 ボルドー・アキテーヌ国立管の音楽監督にジョセフ・スヴェンセン

  9. ウィーン発 〓 国立歌劇場の「オーパンバル」にアイーダ・ガリフッリーナとピョートル・ベチャワが出演

  10. サリー発 〓 英国のグランジ・パーク・オペラが音楽祭の開催を断念、夏の音楽祭で初

  11. ベルリン発 〓 ベルリン・フィル恒例の「ヨーロッパ・コンサート」、今年は本拠地フィルハーモニーのホワイエで

  12. ベルリン発 〓 ベルリン・フィル初の女性コンサートマスター、ヴィネタ・サレイカ=フォルクナーが退団へ

  13. ワシントン発 〓 トランプ大統領が「トランプ・ケネディ・センター」の閉鎖、リノベーションを突然宣言

  14. ロサンゼルス発 〓 グラミー賞授賞式は3月に、アカデミー賞に続いて延期

  15. ロンドン発 〓 ガーディナー率いるモンテヴェルディ合唱団ら3団体の新しい本拠地は聖マーティン・イン・ザ・フィールズ教会

  1. この記事へのコメントはありません。