訃報 〓 エディタ・グルベローヴァ(74)スロバキアのソプラノ歌手

2021/10/19
【最終更新日】2023/02/06

スロバキア生まれのソプラノ歌手エディタ・グルベローヴァ(Edita Gruberová)が10月18日、スイス・チューリッヒで亡くなった。74歳だった。戦後を代表するオペラ歌手の一人で、圧倒的な美声と驚異的な技巧を兼備、世界的な活躍で知られるコロラトゥーラ・ソプラノ。

旧チェコスロバキアのブラチスラヴァ(現在のスロバキアの首都)生まれ。父親はドイツ系で母親はハンガリー系の家庭で育った。ブラチスラヴァ音楽院で音楽の勉強を始め、マリア・メドヴェッカに師事。フランス・トゥールーズの声楽コンクールで優勝後、1968年にブラチスラヴァ歌劇場で《セビリアの理髪師》のロジーナを歌ってオペラ・デビューした。

その後、バンスカー・ビストリツァのJ.G.タヨフスキー劇場の歌手として活動。1969年夏、《魔笛》の夜の女王を歌ってウィーン国立歌劇場のオーディションを受け、1970年に専属歌手の一員となり、それを機に西側に移住した。

1973年には英国のグラインドボーン音楽祭にデビュー、1976年には新制作の《ナクソス島のアリアドネ》のツェルビネッタを歌ってセンセーショナルな成功を収めた。1977年には夜の女王を歌ってニューヨークのメトロポリタン歌劇場にデビューした。

その年、ヘルベルト・フォン・カラヤンが指揮する《ドン・カルロ》に出演してザルツブルク音楽祭にもデビュー。その後、活躍の場を広げ、1980年には初来日。1981年には名演出家ジャン=ピエール・ポネルが演出を手掛けたオペラ映画《リゴレット》に出演、ルチアーノ・パヴァロッティとの共演も実現した。

1984年には英国のロイヤル・オペラ、1987年にはミラノ・スカラ座にもデビュー、幅広いレパートリーで国際的な名声を確立した。中でも、ドニゼッティやベッリーニに代表されるベルカント・オペラの第一人者で、当代を代表する歌手としてでは他の追随を許さなかった。

オペラからの引退は2019年で、バイエルン州立オペラの《ロベルト・デヴリュー》。その後はコンサートやマスタークラス中心の活動に移った。その後、2020年6月にフィレンツェ五月音楽祭に招かれたが、新型コロナウイルスの世界的流行で10月に延期され、最終的にそれもキャンセルされた。

数多くの録音に参加、授賞多数。オーストリアとバイエルンの宮廷歌手、ウィーン国立歌劇場の名誉会員にも叙せられている。夫君は指揮者のフリードリッヒ・ハイダーで共演も多い。また、日本にも多くのファンを抱え、頻繁に来日。自身の半生を語った自叙伝は『うぐいすとバラ』という邦題で日本でも出版されている。

写真:Prague Proms





関連記事

  1. フィレンツェ発 〓 ペレイラがフィレンツェ歌劇場の総裁に

  2. ウィーン発 〓 2023年の「ニューイヤー・コンサート」の指揮者はフランツ・ウェルザー=メスト

  3. カルロヴィ・ヴァリ発 〓 市議会が地元オーケストラの楽団長を突如解任、それを受けて首席指揮者が抗議の辞任、楽団員は解任撤回の署名集めをスタート

  4. ミュンヘン発 〓 バイエルン州立オペラが12日まで公演をキャンセル、新型コロナウイルスの感染再拡大で

  5. ロンドン発 〓 アウシュリネ・ストゥンディーテが代役で《エレクトラ》に出演、前倒しでロイヤル・オペラにデビュー

  6. チューリッヒ発 〓 チューリッヒ歌劇場が“週末ストリーミング”を開始

  7. 訃報 〓 ジョナサン・ミラー(85)英国の演出家

  8. フライブルク発 〓 2021年の「ドイツ音楽コンクール」の受賞者決まる

  9. パリ発 〓 指揮者のクリスティアン・マチェラルがフランス国立管との契約を延長

  10. サモーラ発 〓 サモーラ歌劇祭が近隣の相次ぐ森林火災でオペラ上演を来年に延期

  11. パリ発 〓 国立オペラがバスティーユ歌劇場に作曲家サーリアホの記念スペース

  12. ミュンヘン発 〓 バイエルン州立オペラがゲルギエフに加え、ネトレプコの今後の出演をキャンセル

  13. ニューヨーク発 〓 メトロポリタン歌劇場が“Nightly Met Opera Streams”の第9週のラインナップ発表

  14. クリスチャンサン発 〓 ジュリアン・ラクリンがノルウェーのクリスチャンサン響の首席指揮者に

  15. ミュンヘン発 〓 バイエルン州立オペラが2024/2025シーズンの公演ラインナップを発表、トビアス・クラッツァー演出の新しい《ニーベルングの指環》始動

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。