訃報 〓 ポール・プリシュカ(83)米国のバス歌手

2025/02/06
【最終更新日】2025/02/09

ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(Metropolitan Opera)に51シーズンも在籍し、劇場の主として愛されたバス歌手のポール・プリシュカ(Paul Plishka)が亡くなった。83歳だった。2012年に引退を発表してからも出演依頼が続き、メトロポリタン歌劇場だけで88の役柄で1,672回の公演に出演。劇場の最多出演者リストで10位にランクインしている。

ウクライナ移民の家系で、ペンシルベニア州とニュージャージー州育ち。過去のインタビューでは、農家になるか、トラック運転手になるか、あるいはアメリカンフットボールの選手になるか、と漠然と考えていたが、高校の演劇で『オクラホマ!』のジャッド・フライ役を演じた後、声楽の教師にオペラの世界を紹介されたことから歌手の道を選び、モントクレア州立大学で学んだという。

歌手デビューは1961年のこと。パターソン・リリック・オペラで初舞台を踏んだ。その後、1965年から1967年にかけてメトロポリタン歌劇場の巡回ツアーに参加。1967年にポンキエッリ《ラ・ジョコンダ》の修道士役を歌って、メトロポリタン歌劇場に正式にデビューした。

在籍中、ムソルグスキー《ボリス・ゴドノフ》とヴェルディ《ファルスタッフ》のタイトルロールの他、ヴェルディ《ドン・カルロ》のフィリッポ二世、ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》のマルケ王、ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》のライモンド、ドニゼッティ《愛の妙薬》のドルカマーラといった役を歌っている。

メトロポリタン歌劇場での最後の出演は2017/2018シーズンの終わりに上演されたプッチーニ《ラ・ボエーム》。この時もベノワとアルチンドロの役を一人で演じたが、この二つの役を歌った回数も150回近くあり、それも劇場の記録となっている。

米国ではメトロポリタン歌劇場以外にサンフランシスコ・オペラ、フィラデルフィア・オペラ、シアトル・オペラ、ヒューストン・グランド・オペラ、ダラス・オペラなどに出演。また、ミラノ・スカラ座、ロンドンのロイヤル・オペラ、パリ国立オペラ、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場にも出演していた。

録音も数多く残されており、代表的なものにレオンタイン・プライスとの《トスカ》、ビヴァリー・シルズとの《アンナ・ボレーナ》や《清教徒》、レナータ・スコットとプラシド・ドミンゴとの《オテロ》、ミレッラ・フレーニとドミンゴとの《運命の力》などがある。

1992年にペンシルベニア州知事芸術優秀賞を受賞、偉大なアメリカ人オペラ歌手の殿堂入りを果たしている。

写真:Metropolitan Opera







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