「シューベルティアーデ」とは、その名からも想像される通り、フランツ・シューベルト(1797-1828)の歌曲、ピアノ曲、室内楽作品を中心に演奏する音楽祭である。その名は、シューベルトを慕う友人や詩人、音楽家たちが彼を囲み、彼の音楽を楽しんだサロン・コンサートに因んでいる。

現在の音楽祭は、ドイツの名バリトン歌手ヘルマン・プライが1970年代にオーストリアのホーエネムスで始めた演奏会から発展した。現在ではホーエネムスの他、シュヴァルツェンベルクでも開催されており、2022年の予定を見ると、春から秋にかけておよそ40日、述べ70以上の演奏会が行われている。

しかも、シューベルト以外のロマン派の曲もしばしば取り上げられていて、その多彩さには改めて僕も驚いたところ。今回取り上げるアルバムも、ソプラノ歌手のディアナ・ダムラウが2006年9月にシュヴァルツェンベルクで行った(シューベルト以外の)ドイツ歌曲を中心としたリサイタルである。

ダムラウはドイツのギュンツブルクの出身。高音域で声を転がす「コロラトゥーラ」と呼ばれる歌唱技法に優れ、2003年にコヴェント・ガーデンで歌ったモーツァルト《魔笛》の夜の女王が大評判となった。コリン・デイヴィス指揮のこの公演はDVD化されており、今でも硬質な声で歌われた迫力満点の歌唱を味わうことができる。

以来、彼女は《ランメルモールのルチア》や《マノン》、《椿姫》や《セビリアの理髪師》などのレパートリーを中心に、ミラノ・スカラ座やウィーン国立歌劇場はじめとする著名な歌劇場で歌い、最も人気のあるプリマ・ドンナの一人だ。ただ、そういうオペラでの華やかな活躍の一方で、歌曲の分野でも息長く活動している。特にわが国では意外に知られていないが。

このリサイタルでは、シューマン、メンデルスゾーン、ブラームス、リストといったドイツ歌曲の名作を歌っている。囁くような最弱音から会場の最後列まで届くような鋭いフォルテまで、その幅広い表現力は見事という他ない。まさにオペラと歌曲の両分野を歌い分ける彼女ならでは世界が、そこには広がっている。

さらに、シューマンの妻であるクララ・シューマンや、メンデルスゾーンの姉ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの歌曲を、多数取り上げていることも注目される。女性というだけで夫や弟の名声の陰に甘んじている女性作曲家の諸作に対し、強い共感を込め、一層の細やかさで歌っている。

また、ショパンの3つの歌曲をポーランド語で歌っているのも、いかにも彼女らしいチャレンジだ。ドイツ語とは一味違った柔らかい響きは、ダムラウの別の一面を見せてくれる。

ピアノ伴奏は、ドイツ・リートの伴奏をさせたら当代一と言われるヘルムート・ドイッチェが担当。音を決して濁らせない軽やかなピアノはダムラウの歌唱スタイルにはぴったりで、若い歌姫を自由に羽ばたかせている。


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……… アルバム情報

● LIEDER

 クララ・シューマン:
 ・それはある日のこと
 ・花よ、何を泣いているの
 ・あなたの肖像画
 ・無言の蓮の花
 ・月桂樹
 シューマン:
 ・「ミルテの花」 Op.25 から
  ・ズライカの歌
  ・まだ見ぬ人
  ・くるみの木
  ・お母さん! お母さん!
  ・彼の胸にすがらせて
  ・蓮の花
  ・献呈
 メンデルスゾーン:
 ・新しい愛 Op.19a-4
 ・花束 Op.47-5
 ・月 Op.86-5
 ・魔女の歌 Op.8-8
 ショパン:
 ・愛する人 Op.74-8
 ・リトアニアの歌 Op.74-16
 ・闘士 Op.74-10
 リスト:
 ・美しい芝生が広がるところ
 ・わが子よ、もし私が王様だったら
 ・ああ、私が寝る時
 ブラームス:
 ・セレナード Op.106-1
 ・メロディのようなものが僕の心に Op.105-1
 ・あの下の谷の底では
 ・どうやって扉の中に入ればいいの
 ・甲斐のないセレナード Op.84-4
 メンデルスゾーン=ヘンゼル:
 ・山の憩い
 ・なぜばらが褪せているの
 ・南へ
   他、全34曲

 ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)
 ヘルムート・ドイチュ(ピアノ)

 録音時期:2006年9月4日
 録音場所:シュヴァルツェンベルク, アンゲリカ・カウフマン・ホール
 録音方式:ステレオ(ライヴ)
 

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