戦後を代表する米国の演出家ロバート・ウィルソン(Robert Wilson)が7月31日、ニューヨーク州ウォーターミルの自宅で亡くなった。83歳だった。演劇やオペラをはじめ、60年以上にわたって200を超える実験的な作品を手掛けて空間、光、時間の再定義に挑み、実験演劇の巨匠、視覚芸術の革新者として知られた。
テキサス州ウェーコ生まれ。保守的な家庭に育ち、青年期には自らの同性愛に苦しんだとされる。テキサス大学で経営学を学んでニューヨークに移り、振付家のジョージ・バランシン、マーサ・グラハムの影響を受け、プラット・インスティテュートで建築の学士号を取得。建築家フィリップ・ジョンソンのアシスタントとなった。
1968年、ソーホー地区に実験的なパフォーマンス・カンパニー「バード・ホフマン・スクール・オブ・バーズ」を設立。1970年代に入ると、オペラの世界にも進出、作曲家のフィリップ・グラス、振付家のルシンダ・チャイルズと《浜辺のアインシュタイン》を制作、世界的な名声を確立した。
そのキャリアの初期から、静止状態に近い俳優の動作、シンプルな舞台美術、冷たい色調など、その東洋的な要素と絵画的な表現を融合させた非自然主義的なアプローチで独特の世界を築き、世界中の主要な歌劇場で名舞台を数多く手掛けている。
また、トム・ウェイツ、ミハイル・バリシニコフ、アレン・ギンズバーグ、ローリー・アンダーソン、ティルダ・スウィントン、ジム・ジャームッシュ、レディー・ガガなど、さまざまな芸術家や作家、音楽家たちとコラボレーションを重ねてきた。1991年にはニューヨークのロングアイランド東端に創設した芸術研究所「ウォーターミル・センター」で芸術監督を務め、若手の育成に関わった。彫刻家として、ドローイングや家具のデザインも手掛けている。
ピュリツァー賞にもノミネートされている他、「ローレンス・オリヴィエ賞」、「ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞」など受賞多数。2023年には「高松宮殿下記念世界文化賞」演劇・映像部門を受賞している。
写真:Davide Colombino


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