ルーマニアを代表するオペラ歌手の一人、ソプラノのイレアナ・コトルバス(Ileana Cotrubas)が8月20日に亡くなった。87歳だった。1960年代から1980年代、声の柔軟性、登場人物を的確に描き出すことで独自の存在感を持ち、20世紀後半を代表するリリック・ソプラノの一人として国際的な活躍を続けた。
ルーマニア東部ガラツィの生まれ。父親がアマチュア合唱団のテノール歌手という家庭に育ち、9歳で放送少年少女合唱団に入団。その後、ブカレスト音楽院で学び、1964年にドビュッシー《ペレアスとメリザンド》のイニョルド役を歌って、ブカレスト歌劇場でデビューした。
1965年、オランダのセルトヘンボス声楽コンクールのオペラ・歌曲・オラトリオ部門で、さらに翌年のミュンヘン国際音楽コンクールの声楽部門で優勝。その後、ブリュッセルのモネ劇場のモーツァルト《魔笛》でパミーナ役を歌って大成功を収め、国際的な飛躍となるきっかけを掴んだ。
1968年から1971年までフランクフルト市立歌劇場の専属歌手を務め、1969年にはグラインドボーン音楽祭にドビュッシー《ペレアスとメリザンド》のメリザンド役で出演して英国デビュー。1970年にはウィーン国立歌劇場と3年契約を結び、1971年には、チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》のタチアーナを歌ってロイヤル・オペラにデビューしている。
国際的な名声を掴んだのは1975年、ミレッラ・フレーニの代役として急きょミラノ・スカラ座のプッチーニ《ラ・ボエーム》に起用されたこと。英国のケントの自宅から急きょミラノに向かい、開演15分前に到着という綱渡りの中、ミミを歌って大成功を収めた。
1977年には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場にホセ・カレーラスとレナータ・スコットとの共演でミミを歌ってデビュー。その後も、ヴェルディ《リゴレット》ジルダ、ヴェルディ《椿姫》ヴィオレッタなどで出演を重ねている。
レパートリーの幅は広く、モーツァルトではパミーナ、スザンナ、ツェルリーナ、イリア、コンスタンツェといった役を演じた。また、メリザンド、ミカエラ、マノン、アディーナ、ミミ、タチアーナなどが知られる。一方、演出家や共演者への要求が厳しいことでも知られ、1973年にはウィーン国立歌劇場の《エフゲニー・オネーギン》、1980年にはメトロポリタン歌劇場のドニゼッティ《ドン・パスクワーレ》など、演出家の方針に同意できないとして降板している。
録音も多数。カルロス・クライバーの指揮でプラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズと共演した《椿姫》、カルロ・マリア・ジュリーニの指揮でドミンゴ、ピエロ・カップッチッリ、ニコライ・ギャウロフと共演した《リゴレット》、クラウディオ・アバドの指揮でテレサ・ベルガンサ、ドミンゴと共演したビゼー《カルメン》、ミシェル・プラッソンの指揮でアルフレード・クラウス、ジョゼ・ヴァン・ダムと共演したマスネ《マノン》などは名盤の誉れ高い。
1990年11月、ウィーン国立歌劇場の《ラ・ボエーム》のミミを最後にオペラの舞台から引退。その後はマスタークラスの開催などを通じて後進の指導に当たり、アンジェラ・ゲオルギューなどが巣立っている。
写真:Opera Națională București


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