ドレスデンの街の魅力を一言で表現するのは難しい。かつてのザクセン王国の首都。「エルベ河畔のフィレンツェ」と謳われ、バロック様式の壮麗な建造物が建ち並ぶ。例えば、街の中央に建つ聖母教会。戦禍で崩れ落ちた瓦礫から使えるパーツを一つひとつ組み直し、10年をかけてこの上なく美しく再建を果たした。そこからすぐのアルトマルクの奥に見える聖十字架教会は、この街最古の教会。こちらも再建されたものだが、内部のアクースティクが格別なので、合唱団やオルガンが演奏する時は必聴である。
また、美術好きにもたまない街だ。広大なツヴィンガー宮殿はもちろん、その一部を用いたアルテマイスター館は美術の好きな方には外せないスポット。入館し、最初のドアを開けると、部屋の奥からあの名高いラファエロのシスティーナのマドンナがこちらを向いて微笑みかけている。順路を追っていけばフェルメールやレンブラント、クラナッハやホセ・デ・リベラらの作品にも会うことができる。ツヴィンガーを出て聖母教会を越え少し東に歩けば、アルベルティヌムのノイエマイスター館もあり、そこではカスパー・ダーフィト・フリードリヒや、ケルスティングの描いたパガニーニの絵も展示されている。その他、エルベ川を挟んだ新市街側には現代美術館や、日本宮殿とも呼ばれる(が、日本とはほとんど無縁な)民俗博物館などが立ち並んでいる。
そんな歴史を感じさせる街に音楽祭が創設されたのは東独時代の1978年。公式プログラムには過去の出演者として、ヘルベルト・フォン・カラヤンに始まり、セルジュ・チェリビダッケ、ゲオルク・ショルティ、ロリン・マゼール、クラウディオ・アバド、リッカルド・ムーティ、サイモン・ラトルといった著名な指揮者たち、また、フィッシャー=ディースカウ、マルタ・アルゲリッチ、エディタ・グルベローヴァ、オラフ・ベーア、テオ・アダムといった高名な演奏家たちの名前が綺羅星のごとく踊り、音楽祭が輝かしい歴史を歩んできたことがわかる。日本との縁もある。2005年に紀尾井シンフォニエッタ東京(現・紀尾井ホール室内管弦楽団)がレジデント・オーケストラという好待遇で招かれ、ゼンパーオーパーや日本宮殿、マイセン大聖堂を舞台にハルトムート・ヘンヒェンと若杉弘の指揮で4公演を行っている(共演ソリストはペーター・レーゼル、バイバ・スクリデ、ポール・メイエ)。