2017年の音楽祭の公演数は全体で60を数えた。それを上演する会場もゼンパーオーパーや文化宮殿だけに留まらず多岐にわたる。各教会や美術館・博物館、音楽大学ホール、さらに建物内は修復中ながらバロック建築の外観鮮やかな屋敷と広大な庭園を誇るグローセンガルテン宮や、ワイン用の葡萄畑も美しいヴァッカーバルトなどのシュロス(旧荘園)、ノイマルクトでのオープンエアなど、その数は全部で22箇所。オペラだけではなかなか足が向くことのないそれらを訪れられるのもまた楽しい。
新市街にあるマルティン・ルター教会で行われたのは、ヤーコプス指揮B’Rock管弦楽団のモーツァルト・コンサート。《ドン・ジョヴァンニ》や《フィガロの結婚》などのアリアと後期交響曲の各楽章を交互に演奏するという18世紀風スタイルで進められた。2人のソリスト、マーリ・エーリクスモン(ソプラノ)とヨハネス・ヴァイザー(バス)も素晴らしく、特にエーリクスモンの伸びのある声は美しく可愛らしい。2人はコンサート・スタイルながら巧みに演技を織り交ぜ、またヤーコプスは時折いささか面妖とも言える凝ったテンポやアゴーギクを加えるので引き込まれた。青紫のライトで照らされたルター教会の祭壇も、実に幻想的で美しく映えていた。
一方、聖母教会で聴いた音楽祭管弦楽団では、こちらの期待の高さもあってか、ソリストのマイヤーの深々としながらもキャリア終盤を感じさせる歌唱(半音下げて歌っていた)をはじめ、各奏者同士が互いの語法の違いやアンサンブルを探り合っているところ、あるいは指揮者の求心力不足などが散見された。とはいえ、オーケストラに関しては今後回を重ねるごとによくなってゆくだろう。
室内楽の公演も魅力一杯で、弦楽器奏者の顔ぶれの充実も感じられた。例えば、ピアノのボリス・ギルトブルクと共演したチェロのクラウディオ・ボルケスとヴァイオリンのフィリップ・クヴィント。両者が聴かせた正確かつ自在にして情熱的な音楽や、シュロス・ヴァッカーバルトのワイン生産棟(工場)でリサイタルを行った韓国の若きヴァイオリニスト、ヤン・インモの強靭なテクニックとクリーンな美音などは、どちらも強い魅力を放っている。