33歳の若さで夭逝したルーマニアのピアニスト、ディヌ・リパッティ(1917 – 1950)。その短い生涯の最後、彼は医師の中止勧告を振り切ってフランス・ブザンソン音楽祭に出演した。当時、彼は悪性リンパ腫の末期にあった。後に妻が「まるでゴルゴダの丘に向かうイエス・キリストのようだった」と回想したほど体調は悪化していた。実際、ショパンのワルツを演奏している途中で体調が悪くなり、いったん控え室に戻って注射をしてもらってステージに戻ったというエピソードも伝えられている。プログラムはショパンのワルツ、モーツァルトのイ短調ソナタなど、いずれも彼が得意とした曲ばかり。一方、この日の聴衆も、彼の余命があといくばくもないことを知っている人ばかり。嫌が応にも緊張感に満ちた会場で、リパッティは瀕死の病人の演奏とは思えない、死を目前にした人間だけが奏でられる、鬼気迫る演奏を続けていく。しかし、透明感のある音色、凛々しさにあふれた詩情はやはり、リパッティの音楽そのもの。どこか高貴なイメージを纏い、聞く者に感銘を与える。それから2ヶ月後、彼は天に召された。
……… 収録曲
CD1
・バッハ:パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825
・モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番イ短調 K.310
・シューベルト:即興曲第3番変ト長調 D.899-3
・シューベルト:即興曲第2番変ホ長調 D.899-2
・ショパン:ワルツ第5番変イ長調 作品42《大円舞曲》
・ショパン:ワルツ第6番変ニ長調 作品64-1《小犬のワルツ》
・ショパン:ワルツ第9番変イ長調 作品69-1《別れのワルツ》
・ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調 作品64-2
・ショパン:ワルツ第11番変ト長調 作品70-1
・ショパン:ワルツ第10番ロ短調 作品69-2
・ショパン:ワルツ第14番ホ短調 遺作
・ショパン:ワルツ第3番イ短調 作品34-2《華麗なる円舞曲》
・ショパン:ワルツ第4番ヘ長調 作品34-3《華麗なる円舞曲》
・ショパン:ワルツ第12番ヘ短調 作品70-2
・ショパン:ワルツ第13番変ニ長調 作品70-3
・ショパン:ワルツ第8番変イ長調 作品64-3
・ショパン:ワルツ第1番変ホ長調 作品18《華麗なる大円舞曲》
……… 演奏
ディヌ・リパッティ(ピアノ)