音楽祭の総裁は、高名なチェリストのヤン・フォーグラー(1964~)。前任のヘンヒェンの跡を継ぎ、2009年に就任した。東ベルリン生まれで、20歳の時に当時史上最年少でシュターツカペレ・ドレスデン(ザクセン州立歌劇場管弦楽団)の首席に就任し、97年までその任にあったので、この地との付き合いは深い。同管の第1コンサートマスターであるカイ・フォーグラーと1993年、ドレスデン近郊にモーリツブルク室内楽音楽祭を創設、今も芸術監督を続けている。また、彼がごく初期に所属していたフォーグラー四重奏団の第1ヴァイオリン奏者ティム・フォーグラー(1968~)とはいとこ同士の間柄である。
さて、2017年は、音楽祭がちょうど第40回というメモリアル・イヤーだった。この年のテーマは「Licht」すなわち「光」で、様々な音楽ジャンルや作品、音楽祭の歴史に光を当て、その魅力を照らし出すことが試みられた。フォーグラーはインタヴューで、「光は人類の生命線ですが、啓蒙主義、自由、透明性、エネルギーの象徴でもあ」り、また「啓蒙主義における永遠なる人間のヴィジョンを表しています。音楽は意識を高め、人々をつなぎ、新しい視点を創造します。コミュニティや社会の回復に大きく貢献することができるのです」と語っている。
フォーグラー自身、演奏はもとより、ワークショップ・コンサートの司会を務めたり、毎晩のコンサートやその後のパーティや会食にも実にまめに顔を出し、インテンダントとして八面六臂の活躍。他のスタッフも音楽祭を一層国際的に知られたものとするべく積極的に動き回っていた。その様子から、音楽祭が上り調子にあるのは一目瞭然。2016年に公演数53で48,000人だった観客数は、翌2017年は60公演で54,000人を数えたそうである。チケットの売り上げも前年から38パーセント上昇した。