国際的避暑地でもあるスイスは、音楽祭やセミナーなどが数多く催される“音楽祭大国”でもある。1938年に始まったルツェルン音楽祭はつとに有名だが、その他にもヴェルビエ、グスタード、ロカルノ、アスコーナ、ダヴォス、エルネン、モントルー・ヴヴェイ9月音楽祭といった個性的な音楽祭が行われている。

そうした音楽祭の、比較的最近のライブ録音を集めた「フェスティヴァル~スイスの音楽祭ライヴ」という面白いボックス・セットが「Sony Classical」レーベルから出ている。今回はそこから新進気鋭の古楽器集団、ジェレミー・ローレル&ル・セルクル・ドゥ・ラルモニーによるモーツァルト三大交響曲を聞こう。2016年のアスコーナ音楽週間のライブだ。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)の三大交響曲、第39番、第40番、第41番《ジュピター》は、今ではウィーン古典派を代表する大事なレパートリー。ただ、一時期は、3曲が1788年6月末から8月始めという比較的短い期間に完成しているのに生前に演奏された確たる証拠がないことから、人気に翳りの見えたモーツァルトが発表のあてもなく芸術的欲求から書いたもの、というような説も出ていた。

しかし、最近の研究では、3曲はまとめて演奏することを意図していた3部作で、実際に演奏されていたとみなす見方が台頭。それを受けて、サイモン・ラトルやフィリップ・ヘレヴェッヘ、ジョルディ・サヴァールやリッカルド・ミナーシら多くの指揮者が3曲をまとめて演奏・録音するようになった。ニコラウス・アーノンクールに至っては、「器楽によるオラトリオ」と捉える独自の視点から、拍手なしで3曲を繋げて演奏するようなことまで行っている。

ジェレミー・ローレルが指揮するル・セルクル・ドゥ・ラルモニーの演奏も、そうした演奏傾向を反映した演奏。彼らは近年、「アルファ」や「ヴァージン・クラシックス」といったレーベルから、モーツァルトのオペラ・シリーズや中期交響曲のアルバムをリリースしている。ただ、この3曲はまだ未録音。それだけに貴重な記録だ。

最初の第39番では、序奏を速めのテンポで「一・二、一・二」と大股に歩くように進める。ある意味、予想通り。これはアラ・ブレーヴェ(2分の2拍子)・アダージョという作曲者の指定が、かつて普通に演奏されていたような重厚・長大なテンポ設計ではないという新しい解釈を反映している。第3楽章のトリオで、管楽器に楽譜にない装飾を入れるのもあたり前になってきた感がある。

続くト短調の40番では、提示部の途中でオーボエのロングトーンを大胆にクレッシェンドさせて、聴衆を一気に引きつける。この曲では、全体に楽器編成が透けて見えるような透明感の高い音響設計。Bフラット・アルトのナチュラル・ホルン(通常より1オクターブ高い)の音が、ここまで聞こえる演奏はあまりない。

また、最後の第41番《ジュピター》では、管楽器を中心に、日頃聞き慣れたものとは違った楽器バランスがユニークだ。聞き慣れた曲から多彩な響きを紡ぎ出してくる彼らの手腕には感心せずにはいられない。

いずれの曲も、第3楽章のメヌエットをかなり速めに演奏するが、その他はそれほど極端なテンポは採らない。3曲を通じた楽章設計には一貫した主張が感じられる。コンサート全体として、古楽器を自在に操りながら、若き演奏家たちの覇気、主張に溢れた好演になっており、彼らの今後に大いに注目したい。


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……… アルバム情報

● フェスティヴァル~スイスの音楽祭ライヴ

  Disc1-2:ロカルノ音楽祭、アスコーナ音楽週間

  1. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37
   フランチェスコ・ピエモンテージ(ピアノ)
   サー・ロジャー・ノリントン指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団
   録音:2016年9月28日、ロカルノ音楽祭でのライヴ

  2. モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調 K.543
  3. モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550
  4. モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』
   ル・セルクル・ドゥ・ラルモニー
   ジェレミー・ローレル(指揮)
   録音:2016年10月3日、アスコーナ音楽週間でのライブ


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