[オペラハウス大全]チューリッヒ歌劇場

[劇場名]チューリッヒ歌劇場
     Opernhaus Zürich
[所在地]チューリッヒ … スイス
     Zurich … SWITZERLAND
[開場年]1891年
[客席数]1,100席

…… チューリッヒ歌劇場 | Opernhaus Zürich

[総監督]2012 ▷
 アンドレアス・ホモキ | Andreas Homoki
[芸術監督]2021 ▷
 ジャナンドレア・ノセダ | Gianandrea Noseda
[オペラ監督]2020 ▷
 アネット・ウェーバー | Annette Weber
[バレエ監督]2012 ▷
 クリスチャン・スパック | Christian Spuck

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写真:Opernhaus Zürich

この歌劇場の戦後は、クラウス・ヘルムート・ ドレーゼが来てから始まった。そして、ここが彼にとっても飛躍の舞台となった。1968年からケルン市立劇場の総監督を務めていた彼がこの劇場の総裁に就任したのは1975年。ここでの成功を引っ提げて、彼はウィーン国立歌劇場の総裁に就任することになったのだから。

ドレーゼはケルン時代からの演出家仲間ジャン=ピエール・ポネルを呼び寄せる。ポネルと古楽界の雄ニコラウス・アーノンクールを組ませ、モンテヴェルディのオペラ上演に乗り出す。これが大当たり。続いて、ポネル、アーノンクールのコンビはモーツァルトのシリーズでも大成功。一躍、劇場はヨーロッパのオペラ界の最先端に躍り出た。

1991年、ドレーゼはウィーンに転出。代わりにウィーンからコンツェルトの総支配人を務めていたアレキサンダー・ペレイラが総裁に就任する。そのペレイラが就任して最初にした仕事、それは積もり積もった赤字の解消だった。ドレーゼ時代は名声を獲得したが、それに負けず劣らず、赤字を急激に膨らませていた。

そこで打った手が、新制作の数を年間15にまで増やすこと。同時にそれまでの人脈を活かして有名無名取り混ぜて「これはという歌手」を招いてスポンサー収入を大幅に伸ばし、1995年には音楽監督に赤丸急上昇中だったフランツ・ウェルザー=メストをスカウト。これでもかと妙手を繰り出して1970年代からの、積み重なった赤字の解消に成功する。

この劇場を初めて訪れたのはちょうどその頃、1997年3月のことだ。アーノンクールが指揮するヴェルディの《アイーダ》を取材するためだった。巨匠が古楽の領域を離れ、ずっと時代が下がったヴェルディを指揮する話題の公演。終わって楽屋に巨匠を訪ねたところ、「話は家で」。スイスに別宅か、劇場との縁が深いからか、と感じたものだ。

翌年1998年にまた出掛けた。総合芸術祭「チューリッヒ芸術祭」がスタートするというので、今度はペレイラ総裁に話を聴いた。芸術祭は美術館や博物館、ホールといった施設を結んでアート全般を発信しようという企画で、総裁がその旗振り役を務めていたからだ。ペレイラはもちろん、改革を成功させて元気いっぱい、饒舌だった。

ただ、ちょっと意外な話もあった。成功の陰には、劇場の小ささ、があると。劇場が小さい分、繊細なアンサンブルが求められる。その緻密さこそが劇場の力の源泉だと。それを聞いた時、前に似たようなことを聞いていたことを思い出した。“ピアニッシモを味わい尽くせる劇場”という、ある人の言葉だ。

チューリッヒは首都ではないが、ドイツ語圏の中心でスイス最大の都市。ヨーロッパを代表する都会の一つであることには違いなく、他の大都市の著名な劇場のキャパシティが2,000席を超えることを考えると、1,100席は確かに小さい。そしてその分、弱音を聞き取り安くなるのは確実で、演奏者にとっては細かい表現を活かすことができる。反面、怖さもあるが。

現在の建物は、二代目。初代の劇場は1890年に焼失したが、わずか16か月で現在の建物が建設された。ヨーロッパで最初に電灯を備えた歌劇場でもある。設計はヨーロッパの劇場設計を200も手掛けているウィーンの設計事務所「フェルナー&ヘルマー」だ。新しい建物が短期間で完成したのは、過去に手掛けたヴィースバーデンの劇場(現在のヘッセン州立劇場)の設計を流用したからといわれている。

もう一つ、ドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏に分かれるスイスという国の成り立ちから、それぞれバランス良く取り込んでいるという話も面白かった。年間の公演数は250と、大どころの劇場に比べても遜色がないが、それも新制作が多いから可能になるという。それだけの新制作があればこそ、独伊仏のバランスも取れ、歌手の出入りが増えて、賑わいも生まれてくるのだと。

そのペレイラは2011年に劇場を去ったが、なんとその後、ザルツブルク音楽祭の総監督に就任した。彼にとっても飛躍の舞台となったわけだ。その後は、ミラノ・スカラ座の総裁と大出世。さらに2019年からはフィレンツェ歌劇場の総裁を務めている。行く先々で“嵐を呼ぶ男”として話題を集めるところは面目役如だ。

ペレイラが去った後、2012年から演出家のアンドレアス・ホモキが総裁、ファビオ・ルイージが音楽監督に起用された。ルイージは2020/2021シーズンを最後に退任、バトンはジャナンドレア・ノセダに引き継がれる。ペレイラが去って10年、イケイケ路線はなお健在だ。

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