バイロイト音楽祭
Bayreuther Festspiele

[開催都市]
 Bayreuth … Germany
 バイロイト … ドイツ

[開催時期]
 2024:7.25 … 8.27


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ドイツの作曲家ワーグナーの、オペラと楽劇だけを上演している音楽祭。会期は7月下旬から8月末。彼の最高傑作とされ、通称《リング》の愛称で呼ばれている楽劇《ニーベルングの指環》全4部作上演のため、作曲家自身によって創設された。

会場の「祝祭劇場」は、彼の熱烈な支援者だったバイエルン国王ルートヴィヒ2世の援助で建てられた専用劇場で、オーケストラ・ピットがステージの下にある珍しい構造で、それが活きて深々とした響きが堂を満たす。

《リング》4部作は基本的に5年おきに演出が変わる。4年間の上演が終わると、1年休んで、新演出のプロダクションが上演されるという流れ。2020年からは、バレンティン・シュワルツの新しい演出が登場する予定だった。

ところが、2019年末から世界は新型コロナウイルスの大流行で大混乱。2020年に入って、作曲家の曾孫で2015年から総監督を務め、音楽祭を引っ張ってきたカタリーナ・ワーグナーが病気療養に入ったこともあって音楽祭は中止された。

2021年の音楽祭は無事開催され、オクサーナ・リーニフが音楽祭初の女性指揮者として《さまよえるオランダ人》を指揮して話題を集めたが、新しい《リング》の制作はそれに間に合わず、お披露目は2022年に先送りされた。

ところが…。新しいシリーズを指揮する予定だったピエタリ・インキネンが、2022年の音楽祭のリハーサルを始めたところで新型コロナウイルスに感染して降板。指揮者は《トリスタンとイゾルデ》を指揮して音楽祭デビューする予定だったコルネリウス・マイスターに代わり、その代役にマルクス・ポシュナーが起用されて音楽祭デビューするということになった。

しかも、話はそれで終わらず。《ワルキューレ》では、ヴォータン役のトマス・コニエチュニーが倒れ込んだ時に椅子が壊れて負傷、《神々の黄昏》でグンターを歌うためにバイロイト入りしていたミヒャエル・クプファー=ラデツキーが急きょ第3幕から代役に立って事なきを得るというトラブルも起きた。

極めつけは、大胆な読み替えを行ったバレンティン・シュワルツの演出で、これが史上最大といわれる激しいブーイングを浴びた。4部作は登場人物が多いだけでなく、その関係が複雑に絡み合うが、バレンティンはその関係にまで手を入れ、ジークフリートの父親はジークムントではなく、フンディングという荒唐無稽な設定にしている。

また、ブリュンヒルデがジークフリートに贈った愛馬グラーネは馬でなくて彼女の愛人、という設定で、「ブリュンヒルデの自己犠牲」では、ブリュンヒルデが袋から取り出したグラーネの首を抱いて絶命するといった具合。これだけ突拍子もないと、非難が集中するのも無理はない。

読み替えに対するブーイングは先進的な音楽祭にとっては常であり、後に高く評価された演出もある。しかも、カタリーナ・ワーグナー自身が「レジーテアター=演出家主導の舞台劇」を標榜している。しかし、聴衆ばかりか、歌手やスタッフ、さまざまなメディアからここまで総スカンを喰らうと、後世の再評価に期待するといった話も色褪せる。

ただ、指揮者も演出家も旬の人が起用され、強靱な声が求められる歌手陣も“ワグナー歌い”として自他共に認める実力派がずらりと顔を揃え、音楽祭のために臨時編成される祝祭管弦楽団にはドイツ国内から腕っこきが集まることに変わりはない。そこはさすが、ワーグナーの“聖地”で、彼の熱烈なファン「ワグネリアン」たちにとってここに出掛けるのは一種の“巡礼”に近い。

当然、チケットの争奪戦は熾烈を極め、かつては熱心なファンが何倍ものプレミアムを払い、転売されるチケットを買い求めることが常態化していた。ところが、「レジーテアター」路線になってからは人気に陰りが出て、なんと2023年は開幕時点で多くの公演でチケットが売れ残るという前代未聞の事態に。

カタリーナの路線に対する疑問の声も方々から上がるようになり、音楽祭を長く支え、理事会に影響力を持つ「バイロイト友の会」が「バイロイトは舞台上で起こっていることよりも音楽が重要」という声明を出したことで、2025年で任期が切れるカタリーナの去就まで盤石ではないことが明らかになった。

カタリーナは2023年、パブロ・ヘラス・カサドに新制作の《パルジファル》を、女性指揮者第2号となるナタリー・シュトゥッツマンに《タンホイザー》の再演を振らせた。二人とも音楽祭デビューということもあり、話題作りには成功している。

ただ、過激な演出で名を上げつつある演出家を呼び寄せること自体がリスクで、さらに指揮者の実力がどこよりも問われる音楽祭にニューフェイスを集めることは、“音楽祭のこれまでの断絶”や現場の混乱を呼び込むことにも繋がり、リスクを高めるだけに終わることにもなりかねない。

2023年も開幕直前に歌手の交代が相次いだが、なんとか無事に開幕。カタリーナは開幕会見で、2024年は《トリスタンとイゾルデ》、2025年は《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を新制作することを早くも発表し、それぞれセミヨン・ビシュコフ、ダニエレ・ガッティの指揮に委ねることも明らかにしている。

また、音楽祭が150周年を迎える2026年には、バイロイトで初めて上演されることになる《リエンチ》以下、ワーグナーのオペラ作品10作品の上演が予定され、新制作の《リング》を登場させるという構想も明らかになっている

……… 2022年スタートの《ニーベルングの指環》

  ラインの黄金

  ワルキューレ

  ジークフリート

  神々の黄昏

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