[オペラハウス大全]バイロイト祝祭劇場

[劇場名]バイロイト祝祭劇場
     Bayreuther Festspielhaus
[所在地]バイロイト … ドイツ
     Bayreuth … GERMANY
[開場年]1876年
[客席数]1,944席

…… バイロイト音楽祭 / Bayreuther Festspiele

[総監督]2015 ▷
 カタリーナ・ワーグナー / Katharina Wagner

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写真:Bayreuther Festspiele

こんなことがあっていいのか。あまりの幸運に巡り合うと、素直に喜んで良いのか迷ってしまうことがある。バイロイト音楽祭の取材で劇場を訪れた時、以前一緒に仕事をしたオーストリアの知人に出逢った。すると、タクシードに身を固めた彼がなんと、ワーグナー《ニーベルングの指環》4作品、通し公演のチケットをくれるというのだ。訊けば、彼女が来られなくなったのだという。

この時の取材、急に決めたこともあって、出発前に事務局から「プレス用のチケットはもうない。ステージを見ることはできないが、それでも構わないか?」といわれていた。まあ、それでも行けばどうにかなる、公演については観劇した人の原稿をもらえばよいと、部下の記者とカメラマンの3人で現地入りした。しかし、事務局の人間からは挨拶もそこそこに「チケットの戻りがない」と伝えられていた。

そんなプラチナ・チケット中のプラチナ・チケットが、予期せぬ幸運で手に入ったのだ。それもタダで。4公演のチケット代だけでも、20万円にはなるというチケットが。記者時代に自分では使ったことはないのだが、「キツネに摘まれたような」、「夢じゃないのかと頬をつねってみた」という言い回しは、まさにこういう時に使うのだろう。

取り敢えず、開演が迫っていたので、私が最初の楽劇《ラインの黄金》に飛び込んだ。もちろん、“ワーグナーの聖地”バイロイト祝祭劇場での観劇は初体験。祝祭劇場については語り尽くされているが、構造的に他のオペラハウスと大きく違うのは、オーケストラ・ピットがステージ下に潜り込むように設けられているところだ。この時の公演の指揮はダニエル・バレンボイムだったが、確かに湧き上がってくるサウンドは魅力的だった。

ワーグナーが自分の楽劇を上演するための専用劇場をバイロイトに建てるまでについては、別のところで書いた。バイロイトはいまでこそ人口7万人強の小さい街だが、元々は小国の首都で宮廷があった。日本でも、城下町だった街を歩いていて風情に触れた時に感じる“往時”があったはずだ。

劇場が時のバイエルン王ルートヴィヒ2世の援助を受けて建てられた話も有名だ(ヘルムート・バーガーの怪演で知られるルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ルードウィヒ/神々の黄昏』に詳しい)。ワーグナーは1849年にドレスデンで起こった「ドイツ三月革命」の革命運動にも参加、運動が失敗して指名手配されると、妻コジマの父である作曲家のリストを頼ってスイスへ逃れ、チューリッヒで9年間の亡命生活を送った。バイロイトへ移住したのはその後だ。

劇場の建設が始まったのは1872年、完成は1876年。もちろん、こけら落としで上演された作品はワーグナー《ニーベルングの指環》だ。劇場の設計もワーグナー自身。オーケストラ・ピットだけでなく、観客席や舞台袖の彫刻やシャンデリアといった装飾がなく、それまでの劇場と大きく違っている。約1,900席の椅子は詰め物のない硬い木製で、それらが共鳴することを狙っているとされる。

ただ、椅子の列には切れ目がなく、座席に着くには途中の人に立ってもらって自席にたどり着く必要があるため、着席もいざという時に離席するのも大変だ。劇場は7月下旬から8月下旬にかけて行われる音楽祭の時期しか使用されないが、エアコンもないため、かなり蒸し暑い中で観劇することを覚悟しないといけない。

ちなみに亡命を手助けした義父のリストは1886年7月31日に音楽祭を訪れ、楽劇《トリスタンとイゾルデ》を鑑賞後、気道閉塞と心筋梗塞で急死、75年の生涯を閉じた。娘コジマの希望でバイロイトに埋葬され、いまもこの地に眠っている。

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