看板での表示が小さくて目に付かなかった人も多かったようだが、今回の音楽祭には、実はちゃんとテーマがあった。「私は夢に生きたい」がそれだ。毎回、有名なオペラ・アリアのタイトルから取ってくるというその切り口が面白く、なんとも洒落ている。次回が何になるか楽しみだ。ちなみに今回はグノーの《ロメオとジュリエット》から採られている。
その言葉に、沼尻の想いが込められていたのかもしれない。開演前、記者会見などで沼尻は「単に来場者数を成功のバロメーターとすることには違和感がある」と力説していた。「主催者発表に過ぎない来場者数の増減で、一喜一憂するのは無意味。それだけが成功の尺度ではありません。きちんとした企画を提供できたか、新しいクラシックファンを獲得できたか、コアなファンの方にも内容に納得して頂けたか。そういうことが大切ではないでしょうか」
コンサートの数が多かったからの賑わいだったのか? それが学園祭の雰囲気というものなのか? そのあたりは私には解らないが、会場、聴衆、出演者、スタッフたちの雰囲気、ホールに満ちる空気は和気藹々としていて、「新しいお祭りを楽しもう」という熱気は随所に溢れていた。中でも、顔なじみの出演者たちの、出演前の、出番を楽しみにしているワクワク顔、出演後の満足そうなドヤ顔が印象的だった。
これだけの規模の音楽祭をうまく捌けるのも、ホールの機構がそれに応えられる規模、運営能力を普段から維持しているからだろう。隣の県の人間として、率直に滋賀県が羨ましい。ただ、それだけの巨大施設だけに、来場者の中にはもっと道案内、会場の機能を強化して欲しい、という声も上がっていた。これから年を重ねてそれらが解決されていけば、音楽祭は関西というエリアの壁を超えて、もっと大きな存在に育っていくだろう。湖上オペラが始まるなんてことになれば、それこそ大騒ぎだ。
実は音楽祭の第4のコンセプトは、「人数競争にはさようなら!」だった。しかし、結果をみれば、来場者数は「39,690」、チケット販売率は「84.2%」。昨年まで8年間も続けてきた「ラ・フォル・ジュルネ」に比べても、数字はちゃんと付いてきている。それを見る限り、1年目に打ち出したコンセプトのうち、実現できなかったのは第4のコンセプトだけだったという結果になる。
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