[オペラハウス大全]マッシモ劇場

[劇場名]マッシモ劇場
     Teatro Massimo
[所在地]パレルモ … イタリア
     Palermo … ITALY
[開場年]1897年
[客席数]約1,400席

…… マッシモ劇場 / Teatro Massimo

[総裁]2014 ▷
 フランチェスコ・ジャンブローネ / Francesco Giambrone
[芸術監督]2016 ▷
 エリザベッタ・テシ / Elisabetta Tesi
[音楽監督]2020 ▷
 オメール・メイア・ヴェルバー / Omer Meir Wellber
[終身名誉指揮者]2020 ▷
 ガブリエレ・フェッロ / Gabriele Ferro

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写真:Teatro Massimo

シチリア島はイタリアの最南端にある。イタリア半島はよく長靴に例えられるが、そのつま先の沖合に浮かぶ。ただ、それは、イタリアから見ての話。地中海全体で考えると、そのほぼ中央にあり、軍事上の要衝として古来さまざまな勢力がこの島をめぐって争奪戦を繰り広げてきた。第2次大戦中、北アフリカを征したパットン将軍もこの島を足場にヨーロッパに進攻、イタリア半島を北上した。戦史に詳しい将軍ならではだ。

そんな島のシンボルともいわれるこの劇場、映画『ゴッドファーザー Part3』で、その存在がすっかり有名になった。アル・パチーノ演ずるマフィアのボス・マイケルがファミリーを引き連れて息子のアンソニーのオペラ歌手デビューを見守る場面はロイヤル・ボックスで撮影された。その後、ファミリーは玄関で狙撃される。もちろん、マイケルを狙ったものだが、弾は逸れ、娘のメアリーが犠牲になる。そのシーンには正面の階段が使われた。

マーロン・ブランドの名演の誉れ高い『Part1』の公開は1972年、その大成功を受けて『Part2』は1974年に公開された。正編と続編がともに作品賞を獲得したのは、アカデミー賞史上この映画だけだ。そのプレッシャーがあったのかなかったのか、『Part3』はそれから16年の時を経た1990年に公開された。3部作はイタリアン・マフィアの世界をこれ以上ないほどに濃厚に描き、マフィアの光と影を浮き彫りにした。

数ある歌劇場の中でこの劇場が撮影に使われたのは、シチリア島がイタリアン・マフィアの故郷とされるからだ。主な産業が農業と観光ということもあり、この島は移民を数多く送り出してきた。その多くがアメリカをめざし、そして一部がマフィアという犯罪組織を生み出した。そこにさらに後輩たちが…。イタリアン・マフィア=シシリアン・マフィアと呼ばれるのもそのためだ。ちなみにパチーノの祖先もこの島からの移民だ。

もう一つ、撮影時に劇場が閉鎖されていて便利だったこともある。閉鎖期間は1974年から1997年まで、なんと23年間にも及ぶ。なぜ、そんなに長く閉鎖されていたのか。実はそれもマフィア絡み。地元政府は何度も再開場をめざしたが、改修工事をやろうにも、その利権にマフィアが群がってくるため、押したり引いたりで入札が流れたり、決まっても邪魔が入ったりで、工事がちっとも進まなかったという。

そもそもこの劇場、最初の開場時からしてトラブル続きだった。工事は1864年に始まったが、開場はなんと1897年。完成までなんと33年も掛かっている。設計を手掛けたのはパレルモ出身の建築家ジョヴァン・バッティスタ・フィリッポ・バジーレ。彼はパレルモの経済的な繁栄を背景に気宇壮大なプランを立てた。敷地面積は7,700平方メートルと、ウィーン、パリに次いで世界で3番目に大きい。

しかも、外観は新古典主義様式を採用、ファザードには古代ローマやギリシャの神殿建築のような壮麗な列柱が並んで威容を誇る。内装は一転して、当時流行したアール・ヌーボー様式で統一という贅を尽くした仕様だ。しかし、肝心の工事は進まず、設計者は完成を見ずに亡くなり、息子の代になってようやく開場にこぎ着けた。開場後も、広大な敷地を確保するため教会や修道院を破壊した経緯から修道女の幽霊が出るという噂まで流れた。

念願の再開場が実現したのは、開場100周年に当たる1997年になって。100周年と再開場を同時に祝う記念コンサートの指揮台にはクラウディオ・アバドを迎えている。翌年、《アイーダ》を上演して完全復活を果たし、以後は旺盛な活動を繰り広げている。2020年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で音楽界は壊滅的な打撃を受けた。そんな中でも、リッカルド・ムーティがなんと50年ぶりに歌劇場管弦楽団の指揮台に登場という嬉しいニュースもあった。

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