[3] さらに広がる、これからの輪

歌でいえば、今回のもう一つの目玉は、「かがり火オペラ」と題するオペラの野外上演だった。湖畔に面したこのホールならではの企画で、ホールと湖の間の「湖畔広場」と呼んでいるスペースに300ほどの席を特設してオペラを楽しむ。1年目はびわ湖ホール声楽アンサンブルの若い歌手たちによって、パーセル作曲の《ディドとエネアス》が上演された。

今回はこじんまりとした上演だったが、沼尻の頭の中には、いずれ湖上にステージを設け、そこでオペラを上演するという構想も浮かんでいるという。有名なオーストリア・ブレゲンツ音楽祭のような大掛かりなものはいきなり無理だろうが、もう少し小規模なメルビッシュ音楽祭のようなところまでは実現可能かもしれない。そうなれば、「日本唯一の湖上オペラ祭」として注目度も違ってくるはずだ(蚊が出ない季節も向いている)。

もちろん、そうした「純クラシック」以外にも、クラシック音楽以外のプログラムも盛りだくさん。例えば、ダルマ・ブダヤによるガムランの演奏会。なぜガムランを選んだのかという質問に「今年はドビュッシー没後100年ですが、彼はパリ万博でジャワのガムランを聴いています。もしこれを聴いてなければ、彼の作風は違ったかもしれません」と沼尻。その関連で、いくつかの演奏会でドビュッシーの作品も取り上げられるような仕掛けも考えられている。また、「冨田人形」の公演も。人形浄瑠璃「冨田人形」は滋賀県の選択無形民俗文化財だが、大津の市民でさえあまりなじみがないのだという。こういう機会を通じて、地元にそうした高い文化が伝承されていることも知ってもらいたい」と沼尻は話す。この路線も、まだまだリーチを広げていけそうだ。

地元の文化といえば、会場には、滋賀を代表する老舗和菓子屋「叶匠寿庵=かのうしょうじゅあん」の出店も目立つ。音楽祭のスポンサーに入っている関係から店を出しているということなのだろうが、県外から音楽祭に出掛けてきた人間にとっては、また違った地元の文化の香りを同時に味わえることも嬉しい。また、琵琶湖周遊の観光船の中でも演奏会が行われているところも面白く、こういう形での観光との結び付きも、日本ではあるようでない。

「かがり火オペラ」はパーセル作曲の《ディドとエネアス》。ホールの声楽アンサンブルによる上演で、3月の定期演奏会で一度、演奏会形式で上演している。それだけに歌手たちのアンサンブルは緻密。演出は中村敬一。

将来的には湖上に特設のステージを設ける構想も。そうすることで客席も増やすことが可能になり、ステージ上の「闇」が増すことで、「薪能」のような幻想的な雰囲気の中での上演も可能かも。

スポンサーに名を連ねた滋賀を代表する老舗和菓子屋「叶匠寿庵=かのうしょうじゅあん」。お土産が思い付かない人には意外に助かる存在。逆にファストフードやカフェの出展がもう少しあるとお祭り気分が増すかも。

ガムランの演奏会のみならず、地元でも記憶が薄れつつある人形浄瑠璃「冨田人形」を取り込んだり、音楽祭を通して、県内に散らばる“文化財”の伝承、保存に繋げていくということも音楽祭の役目として浮上。

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