[4] 第4のコンセプトは“見事に挫折”

看板での表示が小さくて目に付かなかった人も多かったようだが、今回の音楽祭には、実はちゃんとテーマがあった。「私は夢に生きたい」がそれだ。毎回、有名なオペラ・アリアのタイトルから取ってくるというその切り口が面白く、なんとも洒落ている。次回が何になるか楽しみだ。ちなみに今回はグノーの《ロメオとジュリエット》から採られている。

その言葉に、沼尻の想いが込められていたのかもしれない。開演前、記者会見などで沼尻は「単に来場者数を成功のバロメーターとすることには違和感がある」と力説していた。「主催者発表に過ぎない来場者数の増減で、一喜一憂するのは無意味。それだけが成功の尺度ではありません。きちんとした企画を提供できたか、新しいクラシックファンを獲得できたか、コアなファンの方にも内容に納得して頂けたか。そういうことが大切ではないでしょうか」

コンサートの数が多かったからの賑わいだったのか? それが学園祭の雰囲気というものなのか? そのあたりは私には解らないが、会場、聴衆、出演者、スタッフたちの雰囲気、ホールに満ちる空気は和気藹々としていて、「新しいお祭りを楽しもう」という熱気は随所に溢れていた。中でも、顔なじみの出演者たちの、出演前の、出番を楽しみにしているワクワク顔、出演後の満足そうなドヤ顔が印象的だった。

これだけの規模の音楽祭をうまく捌けるのも、ホールの機構がそれに応えられる規模、運営能力を普段から維持しているからだろう。隣の県の人間として、率直に滋賀県が羨ましい。ただ、それだけの巨大施設だけに、来場者の中にはもっと道案内、会場の機能を強化して欲しい、という声も上がっていた。これから年を重ねてそれらが解決されていけば、音楽祭は関西というエリアの壁を超えて、もっと大きな存在に育っていくだろう。湖上オペラが始まるなんてことになれば、それこそ大騒ぎだ。

実は音楽祭の第4のコンセプトは、「人数競争にはさようなら!」だった。しかし、結果をみれば、来場者数は「39,690」、チケット販売率は「84.2%」。昨年まで8年間も続けてきた「ラ・フォル・ジュルネ」に比べても、数字はちゃんと付いてきている。それを見る限り、1年目に打ち出したコンセプトのうち、実現できなかったのは第4のコンセプトだけだったという結果になる。

びわ湖ホール以外の県内の施設でコンサートも同時開催と、広域音楽祭の顔も。加えて、街中でも演奏会なども多数。道行く人たちが音楽に誘われ、あちこちに人垣で出来ていく。

音楽祭の締め括りは、沼尻指揮の京都市交響楽団による「クロージングガラ」。日本オペラ界の“レジェンド”、テノールの市原多朗が特別出演。《トスカ》から“星は光りぬ”を熱唱、会場の拍手が鳴り止まぬ一幕も。

「びわ湖ホール四大テノール=清水徹太郎・竹内直紀・二塚直紀・山本康寛」は3月の東京公演も大成功したホール発信の人気ユニット。今回は着ぐるみを着ての熱演。

音楽祭の企画の中には、「キッズ」向けの企画もたくさん。音楽の楽しさを子供に体感してもらうプログラムが並行してが走ることは、地元にとっては大切な“事業”だ。

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