一言で「音楽祭」と言っても、その定義は曖昧だ。このサイト「月刊音楽祭=Around the Music Festival」では取り敢えず、1日だけのものは「イベント」と考え、音楽祭とカウントしていないが、最短で2日というものから2ヵ月近く続くものまで、会期だけをとっても千差万別だ。例えば、日本にもすっかり定着した「ラ・フォル・ジュルネ=熱狂の日」。2017年は、東京では5月4日〜6日に開催されたが、国民的な休日「ゴールデン・ウィーク」期間中に開催され、短いプログラムの演奏会を数多く詰め込んでいることもあって、42万人を超える聴衆を集めた。会期3日という最も短い部類ながら動員数は国内最多というわけで、会期の長さだけで音楽祭の格が決まるわけではない、という見本だろう。
存在感という意味では、1日だけの音楽会なのだけれど、それが定期的に行われていることで音楽祭以上というものもある。代表選手は、元旦恒例のウィーン・フィルによるニューイヤー・コンサートだろう。「音楽の都」からの“音楽の年賀状”。その演奏は世界中に中継され、6億人もの人がそれを観ているとされている。当然ながら「プラチナ・チケット」を手に入れるのは至難の業(元々のチケット自体が高いので、鑑賞ツアーもかなり値が張る)、「最も行ってみたいコンサート」でトップにその名が上がることも多い。
一方、同じ1日だけのイベントながら、切り口としては“音楽祭並”というものもある。例えば、東京の大晦日の風物詩としてすっかり定着したベートーヴェンの交響曲の全曲演奏会。全9曲を一晩で演奏する演奏会は過去に世界各地で何度か行われているが、それを毎年、しかも定期的にやっている世界的な都市は東京だけ。なんとも破天荒な存在だ。指揮者の故・岩城宏之と作曲家の三枝成彰が組んで起ち上げたが、ベートーヴェンの音楽を深堀りするという意味で、音楽祭的な性格を持っているイベントということになる。
音楽祭を紹介する時、現実問題としてチケットが買えない、という音楽祭の扱いをどうする、という問題もある。例えば、ドイツの「バイロイト音楽祭」。作曲家ワーグナーが自作を上演するために建設した(正確に言うとバイエルンのルートヴィッヒ二世に建ててもらった)専用劇場で毎夏行われている、あの音楽祭だ。ニューイヤー・コンサートは高額なツアーに参加するという奥の手がまだ残されているが、こちらは世界中に散らばるワーグナーのファン「ワグネリアン」による“聖地巡礼”という側面もあって、チケットの争奪戦は熾烈。チケットに名前が入っている常設の音楽祭なんて、たぶんここだけだろう。横流しも御法度なので、ダフ屋もお手上げの状態。読者に行ってもらうことが出来ない音楽祭の魅力を伝えるというのもつらいものがある。