始まりは1980年というから、古楽フェスティバルとしては既に古参の部類だろう。これまでにもタリス・スコラーズやムジカ・アンティカ・ケルン、セクエンツァといった著名なアンサンブルをはじめ、ピノック、ウィスペルウェイ、マンゼ、エガーなど新旧の古楽器奏者が多数参加。2008年からはフェスティバルのアンサンブルも結成され、バロック時代の室内オペラをセミ・ステージ形式で上演する企画を始め、さらに魅力を増した。

ルイ14世時代のフランスで活躍した作曲家マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643-1704)の《アクテオン》は、そのシリーズの最初の演目の一つ。翌2009年にセッション録音され、「CPOレーベル」からリリースされた。羊飼いや田園の生活を題材としたロマンチックな文学、劇が流行する中で発展した「牧歌劇」や「田園劇」の一つで(1683-85年頃発表)、オペラの源流の一つでもある。

物語自体はギリシア神話に基づいていて、猟師アクタイオン(アクテオン)が仲間と狩に出た折、女神ディアナとニンフたちの水浴びを誤って目撃し怒りを受けるというもの。絵画の題材にもたびたびなっていて、ルネサンス期の巨匠ティツィアーノの『ディアナとアクタイオン』は、つとに有名だ。

全6場。メランコリックな曲調の序曲の後、第1場ではアクテオンと仲間の狩人が、ガルガフィーの谷間に狩りに向かう。アクテオンは、エール(アリア)で「森の女王」に収穫を祈る。第2場は、茂みの奥の泉で水浴びをするディアナとニンフたちの歌で始まる。以下、ダフネとイェールの二重唱、アルテビューズとニンフたちの合唱の交替が続く。

そして、第3場で話は転換。森で休息をとるアクテオンは、ちょっとした興味心から、ディアナたちの裸身を覗き見てしまう。そこをディアナたちに見咎められ、責められ、罰を受けることを告げられる。ニンフたちの叱責の合唱が続く。

続く第4場には、水に映った姿から、自らが牡鹿に変身させられたことに気づいたアクテオンの嘆きのレティタティーフ。その後、管弦楽の悲しげなリトルネッロが続く。第5場では、猟犬が牡鹿を追い詰め、それを見て狩人たちは囃し立て、その場にいないアクテオンに呼びかける。第6場。登場した結婚の神ジュノンが、アクテオンの辿った末路と、そこに至る物語の背景を語る…。

いずれの音楽も、貴族たちの館で演じられるに相応しい典雅な旋律が魅力で、後のオペラで見られるような歌手たちによる技巧の披露や劇的な性格表現はここにはまだない。しかし、自らの鹿の姿を水面に写してみた後のアクテオンの嘆きの表現は、この牧歌劇中で唯一大きな感情の発露で、そのアクテオン役を演ずるアロン・シーハンは、言葉を話そうと思っても話せないという歌詞を、歌でうまく伝えている。

1982年には、音楽祭の常連でもあるレザール・フロリサンが主宰者ウィリアム・クリスティーの指揮でこの《アクテオン》をフランスのレーベル「Harmonia Mundi France」に録音している。自らシャルパンティエの牧歌劇『レザール・フロリサン=花咲ける芸術』を冠しているだけに、彼らはシャルパンティエの音楽の復興に大きな貢献をしてきた。

クリスティー盤は、アニエス・メロンやドミニク・ヴィスといった名歌手たちを擁し、弦楽中心でスタイリッシュな音楽づくりを見せる。それに比べると、ポール・オデットのテオルボが通奏低音で活躍するこのアルバムは、より柔軟かつ素朴な響きが魅力。この時代の牧歌劇らしさ、雰囲気をよく伝えている。

音楽祭はその後も、《花の王冠》や《オルフェウスの冥府下り》、《ヴェルサイユの喜び》、《花咲ける芸術》といったシャルパンティエ作品を継続して録音している上、他にもバロック期の珍しい作品を発掘上演している。シリーズの今後の展開にも大いに期待したい。


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……… アルバム情報

◉ シャルパンティエ:歌劇『アクテオン』
◉ シャルパンティエ:歌劇『冥界へ下るオルフェ』抜粋
◉ シャルパンティエ:歌劇『賢者の石』

 アーロン・シーハン(アクテオン)
 テレサ・ワキム(ディアナ)
 ミレイユ・ルベル(イェール / ジュノン)
 リディア・ブラザートン(ダフネ)
 アマンダ・フォーサイス(アルテビューズ)他

 ボストン古楽音楽祭声楽アンサンブル
 ボストン古楽音楽祭チェンバー・アンサンブル
 ポール・オデット (指揮)
 スティーヴン・スタッブス (指揮)

 録音時期:2009年9月28日〜30日
 録音場所:ドイツ・ブレーメン、ブレーメン放送ゼントザール
 録音方式:デジタル


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